「莫大な富と多大の社会貢献で欧米では大きな話題になっているのに、日本のマスメディアにはほとんど取り上げられない人物がいる」 引用は『ソロス』(ダイヤモンド社)からのものではない。五百頁近いこの伝記を読み終え、ふと思い立って繙いたのは、他ならぬ「フォーサイト」のバックナンバー。一九九三年第四号に掲載された「世界の市場を席巻する『ニューヨークの錬金術師』」という記事の書き出しだ。 これは小生が「フォーサイト」編集部に在籍していたころに編集者として担当した記事で、自慢になるが、おそらくは、日本語で書かれた最初のジョージ・ソロス論ではないかと思う。 当時の日本はバブル崩壊のまっただなか。日経平均株価は底が抜けたように下がり続けていた。誰もが仲よく大損するのに、株価先物や現物株の空売りなどを利用して、例外的に大儲けしていたのが外資系証券会社だった。 だが、外資系証券の背後には、大口顧客である国籍不明の投資信託が控えている――ある金融ジャーナリストから、そう聞いたのは九二年の秋のことだった。 欧州が通貨統合を目指すなか、九月にポンドとリラが暴落し、イギリス、イタリアはERM(欧州為替相場メカニズム)からの一時的離脱に追い込まれていた。このとき、ポンドやリラを大量に売ったのも同じ「国籍不明の投資信託」だというのだ。

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