フランスのノルマンディーの中心都市カーンでレストランを経営するシェフ、エバン・ボーチエ氏にエリゼ宮から電話が入ったのは今年三月。執事長のジャッキー・アルベール氏からだった。「六月のノルマンディー上陸作戦六十周年記念式典の昼食会をお願いしたい」と執事長は言った。「なぜ私が選ばれたか知りませんが、料理人には一生にあるかないかの名誉な話でした」 同氏は十代で料理界に入り、各地のレストランで修業を積んだ。一九九五年、二十九歳で地元のカーン市に戻り、売りに出されていたレストランを買い取り、開いたのが現在のレストラン「プレッソワール」。二十代でレストラン経営者になるのはフランスでも珍しい。「借金してでも故郷で自分のレストランを持つのが夢でした」。 夫婦で頑張った甲斐あって、昨年、レストラン格付けガイド「ミシュラン」で一ツ星を獲得。これは、カーン市で初の星つきレストランの誕生だった。同氏に白羽の矢が立ったのは、こうした実績が考慮されたのだろう。 エリゼ宮からの話を受け、ボーチエ氏は前菜、主菜合わせて十五品のメニューを作った。この中から執事長は八、九皿を試食。これを持ち帰ってシラク大統領の最終的な承認を得て決まったのが以下のメニューである。

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