「一昔前なら考えられなかったんだけどねえ」 七月一日付の幹部人事に、国土交通省のある幹部はそう驚いた。 国交省の水資源部長だった甲村謙友氏(五三)が環境省の水環境部長に就任。甲村氏の後任には、環境省技官の仁井正夫氏(五四)が就いた。仁井氏は水環境部の水環境管理課長を経験しているから、名実ともに「交換人事」である。 省庁間の縦割りを解消するために今夏の異動で実施された幹部交流人事は四十件。国交省と環境省の間では、「水」の所管をめぐって鋭く省益を対立させるポスト同士で行なわれたことになる。この人事を受け、関係者の間では「今後、水法が再浮上してもおかしくない」と取り沙汰されている。「水法」は「水基本法」の略称だが、これらは仮称でもある。今はまだ、水行政の基本的な方向性を定める理念法である「基本法」を制定するため、公明党を中心とした超党派の国会議員たちが検討を重ねている段階だからだ。 なぜ、「基本法」が必要なのか。それは、各省庁で水の所管が細分化された結果、根拠法が錯綜し、水質保全や渇水など現実の問題に対応できていないためだ。基本法を制定し、健全な水循環を実現させることが求められているのだ。 具体的には、水田や畑で使われれば農林水産省、工業用水は経済産業省、水力発電は資源エネルギー庁、家庭で使う水道水は厚生労働省がそれぞれ担当。そして、これらの水使用を許可しているのは河川を管理する国交省である。

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