グーグルが作る新たな経済圏

執筆者:梅田望夫2004年9月号

 グーグルの株式公開が近づいてきた。本誌が刊行される頃には既に公開されているかもしれないが、公開後の時価総額は三兆円から四兆円の間となるだろう。同じIT関連の製造業と比較すれば、東芝、富士通、NECの時価総額が一兆円台の前半から半ばくらいを推移しているので、その倍から三倍。ソニーや松下電器にほぼ匹敵する時価総額である。 時価総額一兆円超の製造業といえば、連結子会社も含めて十万人規模の雇用を生む。しかしグーグルの社員はわずか二千人足らず。グーグルがせっせと作りこんでいる「情報発電所」とも言うべきコンピュータシステムが自動的に付加価値を生み出すから、製造業ほどの雇用を生まないのだ。 そればかりではない。時価総額一兆円超の製造業ならば、下請け企業群、素材・部品納入企業、販売会社や保守サービス企業など、その企業を中心とした巨大な経済圏が形作られ、地域経済を潤す効果が大きい。その感覚がグーグルには全くない。 しかしこれだけの富を創出する企業ならば、当然のことながら、某かの経済圏を形作るものだ。製造業の経済圏に慣れ親しんだ我々に、それが見えないだけなのである。 ところで日本の大手製造業の幹部とグーグルについて話すとき、典型的な反応は「グーグルって、ビジネスモデルは広告でしょ。あんまり興味がないなぁ」というものである。確かに、グーグルの一千億円規模の年間売上の大半が広告収入だ。

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