イミがわからない言葉

執筆者:成毛眞2004年9月号

 十年ほど前まで、コンピュータ業界が頻繁に受けていたクレームの一つが「用語」だった。カタカナばかりで理解できないというのである。たしかにフロッピーディスク、キーボードなどの一般的な用語だけでなく、インターネットが流行りはじめてからはウェブ、ブラウザー、クッキーなど特殊な用語も増えてきた。ADSL、HTTP、JPEGなどの略語にいたっては想像することすらできないというのである。 当時は「パソコンが使えないと仕事がなくなる」というような脅しめいた記事や書籍が出回り、焦った中高年が使いこなせないことの言い訳を探していた。普及の妨げになるかもしれないと反論を用意した。「自動車用語もハンドル、バンパー、ガソリン、カーナビなどほとんどがカタカナ語ではないか。DOHC、ABS、SUVのような略語もある。コンピュータ用語を難しく感じるのは慣れの問題である。新技術を使いこなすためには努力が必要なのです」 なんでこんな簡単な用語まで解説しなければならないんだと思いながらも、コンピュータ用語辞典の編纂に加わったこともある。 しかし、自分がコンピュータ業界から金融業界に移ったとたん、パソコンを使いこなせなかったおじさん達の心情が即時に理解できた。マンデート、イールドカーブ、センチメント。CDO、PVI、LIBOR。なにがなんだかわからない。しかし、いまさらカタカナ語が多いから何とかしてくれと泣きつくこともできない。金融用語辞典を買ってきた。

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