廃車も大きな問題に(重慶のタクシー廃車置き場)(c)AFP=時事
廃車も大きな問題に(重慶のタクシー廃車置き場)(c)AFP=時事

 2009年に米国を抜いて自動車(新車)の生産・販売台数で世界トップに立った中国は、2010年に生産、販売をさらに500万台近く伸ばし、2年連続で世界最大の自動車大国となった。生産は前年比32.4%増の1826万4700台、販売も32.3%増の1806万1900台に達し、5年で3.5倍の規模に膨張した。“暴走”ともいえるスピードで膨張する中国の自動車市場の光と影を2回にわたって追う。  昨年、米国の販売台数は11.1%増の1158万8700台と上向いたものの、中・米の差は前年よりさらに開いた。全欧州(EUとEFTA地域の延べ28カ国)の販売台数は前年比4.9%減の1378万5600台にとどまっており、米、欧州ともに中国に大差をつけられた。まして販売が500万台に届かなかった日本と比べれば今や中国は3.5倍の規模の市場になった。中国が日本を販売台数で抜いたのは06年だったが、わずか4年でこれほどの大差がついた。

3億人の中流層と3700ドルに達した1人あたりGDP

 なぜこれほどの猛スピードで中国市場は膨張するのか?
 それには2つのカギがある。ひとつは今や世界中の企業が消費者として注目する「中国の中流層」だ。中国の政府系シンクタンク、社会科学院などの分析では、中国では中流層は全人口の23%前後にすぎない。「総中流」といわれる日本では中流層は90%前後を占め、先進国の平均でも社会の70%以上が中流といわれる。それに比べ、中国の中流層の比率は小さく、農民および出稼ぎ農民などから成る工場労働者など下層が依然として社会の70%以上を占める。およそ中流社会とは呼べない国家だが、その限られた中流層の絶対数は社会科学院の数字をそのまま使えば約3億人にも達する。米国の総人口にも匹敵する規模だ。
 ふたつ目のカギは、所得の伸びだ。中国の1人あたりGDP(国内総生産)は3700ドルに達し、平均でみれば中進国に入った。一般的に乗用車の普及が加速するのは1人あたりGDPが3000ドルを超えたあたりと言われており、中国は普及期に入っているのは間違いない。だが、より重要なのは中国の沿海都市部の住民すなわち中流層の1人あたりGDPは実質的には7000ドル以上に達していることだ。厚みのある農民・労働者層が平均値を押し下げているため見えにくいが、上海市、北京市などでは1人あたりGDPが1万ドル以上に達しているとみていい。中流層は十分にマイカーを持つ経済力を獲得しているのだ。
 人口3億人の米国で最盛期に年間1750万台の自動車が販売されたことを考えれば、中流層3億人とその上の富裕層が1000万人以上いる中国が1800万台の市場になったことは何ら不思議ではない。限られた中流層だけでも、中国は本格的なモータリゼーションの時代に突入しているのだ。

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