実は処罰されていないソマリア海賊

執筆者:白戸圭一2011年2月3日

 韓国海軍の特殊部隊が1月21日、ソマリア沖で海賊に乗っ取られていた韓国のケミカルタンカー「三湖(サムホ)ジュエリー」に突入し、銃撃戦の末に海賊8人を射殺、5人を拘束して人質の解放に成功しました。ソマリア海賊の船舶乗っ取り事件は、身代金支払いによって人質が解放されるケースが一般的です。同船が海賊に乗っ取られたのは1月15日。発生から6日後の強行突入による解決はやや異例の展開でしたが、人質に日本人が含まれていなかったこともあり、この強行突入は日本ではほとんど報道されませんでした。

 しかし、私たちは、日本の海上自衛隊が海賊対策のために今もソマリア沖に派遣されていることを、時には思い出す必要があると思います。新聞記者の私が言うのも自己矛盾かもしれませんが、日本の政治メディアの政局報道ばかり見ていると、世界の動きが分からなくなる恐れがあると思います。韓国軍の突入劇は、諸外国で大きく報道されたのです。

 海自の派遣は2009年3月に海上警備行動発令に基づいて実施され、海自の活動の法的根拠は2009年6月成立の海賊取締法に引き継がれています。
 アフリカ特派員だった私はソマリアでの紛争取材の経験がありますが、日本に帰国後の2年間、政治部に配属されていた経験もあります。アフリカ特派員と政治部記者の両方を経験した日本の新聞業界でも極めて珍しい経歴の持ち主なので(笑)、国会で海賊取締法が審議されていた当時のことはよく覚えています。自民党の麻生政権が風前の灯火だった当時、ソマリアの海賊問題は自民党VS民主党の対決の構図における大きな「政治ニュース」でした。かつて2度のソマリア取材で地獄を見た者の目には、世界の安全保障の一大脅威である問題すら「政局」に還元してしまう永田町の世界(そこには政治メディアも含まれる)は、ほとんど信じられないというのが率直な気分でした。

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