インド財政政策の柱として導入計画が進んでいるGST(物品・サービス税)をめぐり、「中央」と「地方」の意見対立が改めて顕在化しはじめた。インド財務省は国と州で徴税主体が別れている間接税体系を統廃合し、今年4月1日から新たに創設するGSTに統合する予定だった。だが、州境を超えて流通する物品に課税されるCST(中央売上税)など、GST導入に伴う州政府の減収分を中央政府がどのように補填するかをめぐって中央と州政府、とりわけ中央政界では野党となっているインド人民党(BJP)あるいはその友党が支配する州が導入に強く反対。新税の4月導入は延期となり、協議は今も難航している。
究極の多民族、多宗教、そして多言語国家であるインドという国は、主に言語によって28の州に分かれた連邦制を採用しており、憲法によってそれぞれの州には幅広い権限が与えられている。中央政府が独自に権限を行使できるのは外交、国防、通信ぐらいで、農業やヘルスケア、教育などは州政府の専管事項であり、その他電力などインフラ整備や社会福祉などは中央政府と州政府の共同専管事項となっている。この結果、中央政府の立てたインフラ整備計画や教育政策などが州政府の怠慢やエンフォースメントの弱さ、そして腐敗などのため思うように進まないケースが多々ある。さらには、州の政治家が農民向け電力料金をタダにするなど人気取りに走った末に州の電力公社が経営破たんするなど、多くの弊害が出ている。
 これだけならインド特有の内政問題として済まされる話だが、中央と州政府間の政策のねじれ、あるいは連携の悪さは、インドでビジネスを展開、あるいはインドへの進出を検討している日本企業など外資の戦略にも影響を与えかねない。
 そもそも、西ベンガル州でタタ自動車の工場建設計画を政争の道具に利用し、これを中止に追い込んだ地方政党・トリナムール会議派のママタ・バナジー党首(56)は現在、与党連合の中核として連邦鉄道相という重要ポストに就いている。南部の有力州・タミルナドゥ州では中央政府も一目置く豪腕政治家のM・カルナニディ州首相(86)が、地元を本拠とする国営企業の株式売却に猛反対してこれを白紙撤回させた経緯がある。各州に強固な支持基盤を持つ地方政党やリーダーたちが反旗を翻せば、中央の政権も大きなダメージを免れない。
 もちろん、スズキなど多くの日系企業が進出するデリー西郊のハリヤナ州や、日系企業を誘致するため専用のニムラナ工業団地まで造成した西部ラジャスタン州などの例をみるまでもなく、今のところ日本・日系企業を迎え入れる各州政府の対応に大きな問題はない。タミルナドゥ州では先述のカルナニディ氏の強力なリーダーシップの下、日本企業をはじめ世界の製造業やハイテク・IT企業の誘致に成功している。
今回のGST導入問題は、直ちに州政府の懐具合に影響する事案だけに、企業誘致と同一に論じることはできないが、今後整備の遅れたインフラやレッド・テープ、賃金上昇などと並んで、中央と州の政権のねじれがインドビジネスにおける新たなリスクとして浮上してくる可能性は否定できない。                         
                                   (山田 剛)

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