世界の原子力の根幹揺るがす福島原発危機

執筆者:新田賢吾2011年3月17日

 上部の外壁が飛び、鉄骨の骨格だけが残った原子炉建屋。福島県の太平洋岸にある福島第1原子力発電所1号機、3号機の今の姿は衝撃的だ。
 3月11日に東北、関東を襲ったマグニチュード9.0の国内史上最大の地震は、多くの人命を奪っただけでなく、日本のエネルギーの中核である原子力発電所の根幹をも揺るがした。事態は水素爆発による原子炉建屋の破壊、格納容器からの放射性物質の漏洩など深刻な事態が連鎖的に発生、今後の展開はまだ見通せない。現時点ではっきりしているのは、東京電力など電力会社が主張してきた原子炉の安全性とは実にもろいものであり、自然の脅威の前では人間の認識能力、コントロール能力には限界があるということだ。

なぜ事故は起きたのか

 そもそも福島第1の1、2、3号機は、なぜこのような状況に至ったのか。これまでの東電、原子力安全・保安院などの発表をたどれば、以下のようになる。11日の地震直後、各原子炉は自動的に制御棒が挿入され、発電を停止した。だが、核分裂反応を起こし高熱を発していた燃料棒は余熱を持っているうえ、核分裂の後の崩壊熱を発し続けているため、高温状態が続いている。稼働中の原子炉には常に外部から冷却水が送り込まれ、それが蒸気になって外部に出される。その蒸気でタービンを回し、発電するのが原子力発電の仕組みだ。当然、原子炉で核分裂反応が止まった後も冷却水は供給されるが、地震の強烈な揺れとその後に沿岸を襲った大津波によって、原子炉内に冷却水を送り込む通常のメカニズムが機能しなくなり、炉内の温度が急上昇した。
 原子炉で起こりうる最も危険な事象だ。それを防ぐために炉心を冷やす装置がある。貯留してある水を電動ポンプで送り込む緊急炉心冷却装置(ECCS)だ。それが仮に起動しない場合には、炉内で発生する蒸気で水を送り込む仕組みがある。いずれにせよ、原子炉内は発生した蒸気で高圧の状態にあるため、外部から水を注入するには圧力をかける必要がある。福島第1原発では、まず、第1段階の電動ポンプを動かす電力が地震による送電線切断によって供給されなくなり、所内にあるディーゼル発電機も津波で故障したとみられる。ポンプは複数あり、その一部はバッテリーでも駆動されるが、それも地震発生後、数時間で稼働しなくなった。
 最後の手段である蒸気駆動も何らかの原因で動かず、炉心の冷却水が減少、炉内の温度と圧力が急上昇した。原子炉圧力容器とその外側の格納容器の破損を避けるために弁を開放し、内部の放射能を帯びた蒸気を大気中に放散。並行して海水を外部のポンプでくみ上げ、炉内に注入した。そのプロセスが順調にいかなかったため、炉内で発生した水素が建屋内に溜まり、1、3号機では水素爆発が起きた。

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