3月19日夕方、ついにフランス空軍ラファール機によるリビア攻撃が開始された。4波にわたる攻撃を実施、途中から英軍機も加わった。20日未明には米英軍も洋上艦と潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」124発をリビア領内の20カ所の軍事施設に向けて発射した。
 サルコジ仏大統領はこれに先立ち、「リビアでの限定的な軍事行動を許可した。行動はすでに始まった」と述べたが、ここに来て武力行使容認に傾斜してきたオバマ米大統領もその直後に「米軍に限定軍事行動を許可した」と語った。今回の作戦行動を米国防総省は「オデッセイの夜明け」と命名した。23日時点で軍事参加している国は米英仏、イタリア、カナダの5カ国である。

泥沼化の危険

パリのエリゼ宮(大統領府)でリビア反政府勢力の連合組織「国民評議会」のジェブリル委員長(中央)、外交担当のエサウィ氏(右)とあいさつを交わすサルコジ仏大統領 (C)AFP=時事
パリのエリゼ宮(大統領府)でリビア反政府勢力の連合組織「国民評議会」のジェブリル委員長(中央)、外交担当のエサウィ氏(右)とあいさつを交わすサルコジ仏大統領 (C)AFP=時事

 しかし戦争は始めるより終結させるほうが難しい。戦争に乗り出すには、目的、達成手段・方法が先ず問われるが、同時にそれを完遂するための戦略的意思がどの程度強固であるかということがその基礎となる。その意味では、米欧の空爆攻撃の展開には戦争が泥沼化する大きな危険がつきまとっている。  第1にこの攻撃は、リビア政府軍の空爆から市民を守るため、国連決議1973によって地上軍侵攻以外の全ての必要措置を認め、飛行禁止区域を設定することを直接の目的としている。米欧諸国が本音の部分で期待するのはカダフィ自身の退陣であるが、実際にはそのために米欧「有志連合(コアリション)」諸国ができることは限られている。アラブ世界全体に反米の気分は潜在しているし、内政干渉の疑念はもともと強い。今回の攻撃の直後、国連決議には賛成したアラブ連盟が空爆を批判、アフリカ連合も即時停戦を提案した。その空気の中で、有志連合の「正義」が担保される保証はない。  第2に、軍事施設への限定的な空爆と飛行禁止区域の設定にどれだけの効果があるのか。当初この飛行禁止区域設立を提案したのは、イギリスだった。これを支持する形でフランスは対リビア政策を積極化させたが、空軍による軍事行動をも視野に入れるように国際社会に強く要望したのはむしろフランスであった。これに対してメルケル独首相は、空からの攻撃についてその有効性には懐疑的であり、リビアの民主化・カダフィ退陣という点では合意するが、その手段については袂を分かった。3月上旬にはEU臨時首脳会議やG8でもリビア情勢への対応が議論されたが、国連決議でもドイツは中国・ロシアとともに棄権票を投じた。各国の認識の違いは大きく、国連決議は必ずしも一枚岩的なものではなかった。空爆開始直前のパリでの米英仏とアラブ連盟首脳らによる意思統一の会合は、有志連合そのものの不安定さをうかがわせるものだった。  アシュトンEU外交安全保障上級代表も飛行禁止区域の有効性、また空からの攻撃が多数の民間人の犠牲を伴うと予測されることから、英仏の提案をずっと拒否していた。コソボ紛争で停戦が終結するまで空爆が69日も続けられたことや、湾岸戦争後のイラクでの飛行禁止区域設定にもかかわらず、フセイン政権はイラク戦争まで延命し続けたことも想起されただろう。

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