エジプトが歩む移行期政治プロセスの緊張

執筆者:池内恵2011年4月1日

[カイロ発] ムバーラク政権崩壊後のエジプトの移行過程の政治プロセスは、危ういバランスの上で進んでいる。3月19日に憲法改正案への国民投票が行なわれ、77.2%の賛成票により信任されたのを受け、国軍最高評議会は3月30日に1971年制定の従来の憲法を簡略化した形の暫定憲法を布告した。大統領選挙への立候補要件を緩和し、大統領の任期を2期に限定し、大統領権限に一定の制約を課すといった形で、これまでの憲法に最低限の修正を加えながらも、抜本的な憲法改正は議会選挙後に先送りした格好だ。同じく国軍最高評議会は3月28日に政党法の改正を布告し、以前に比べれば自由な政党活動を容認した。9月の人民議会選挙までに非常事態令を解除し、人民議会選挙を経て、年内に大統領選挙を行なう日程表が示され、民政移管と新憲法制定による民主化の道筋が一応は見えてきた。従来の日程では6月に人民議会選挙、9月に大統領選挙が行なわれることになっていたので、若干遅らせつつも大幅な延期や制度改変はしないという形である。アラブ諸国の中で、比較的安定的、着実に民主化への移行プロセスを進めていると見ることができる。
 ただし停滞や先行きの不安も顕在化している。危惧されるのはコプト・キリスト教徒をスケープゴートにした宗派紛争の扇動や、イスラーム主義の過激派・伝統主義派による威嚇が民主化を停滞させることである。米国やイスラエルへの排外主義も、常に火がつきかねない。特に経済停滞への不満がどこにはけ口を求めるかは、流動性が高く予想をしにくい問題である。
 本日4月1日金曜日には、民主化勢力がデモを再活性化させようと試みている。停滞する旧体制への追及を再度要求していくと共に、旧体制支持派との暗黙の結託が見え隠れするイスラーム主義の過激派・伝統主義派を牽制することが目的である。このデモの規模や実態は、今後のエジプト政治、ひいては中東地域政治の展開に影響を与えるだろう。緊張して見守っているところである。

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