「電力会社のあり方」を問い直す

執筆者:新田賢吾2011年4月12日
「東電の国有化」や「原発の国家管理」など幅広い議論が必要だ(会見する勝俣恒久会長=左=と武藤栄副社長)(c)時事
「東電の国有化」や「原発の国家管理」など幅広い議論が必要だ(会見する勝俣恒久会長=左=と武藤栄副社長)(c)時事

 東京電力の福島第一原子力発電所の放射能漏れは底なしの危機の様相を示している。原子炉や使用済み核燃料プールに注水すれば、放射線量の高い汚染された水が垂れ流しになり、汚染水の流出を防ごうとすれば、高い放射線量が作業の障害となる。ある手を打つと、別の問題が噴出する構図だ。放射能による汚染は大気、上水道から農産物、魚介にまで広がり、福島県双葉町、大熊町など退避地域の住民の避難生活は長期化の様相を示している。東電の責任は日増しに重くなり、賠償額も急激に増加している。福島第一原発の廃炉費用なども含め、もはや民間企業としての存続が疑われるレベルに達している。

ウォールストリートからの圧力

 株価は年初来高値の2197円(2月23日)から4月6日には292円にまで暴落した。1951年の上場以来の最安値だ。株価はその後、400円台まで戻してはいるが、放射能漏れなど危機がさらに深刻化すれば、さらなる安値もあり得るだろう。暴落で東電の大株主である第一生命、日本生命などは含み益がそれぞれ100億円以上吹き飛んだ。東電は「お堅く、景気の波にも左右されない株式」の代表とみられているため、60万人の株主を抱えており、株式暴落は年金基金や外資系ファンドなどだけでなく、一般株主にも大きな打撃を与えている。そのなかで注目すべきは世界への波及だ。米国の年金ファンドの多くが、日本株を一定比率でポートフォリオに組み込んでおり、東電はその代表銘柄になっているからだ。東電の外国人株主比率は表に出ているだけでも20%前後だが、実際はもっと高いという見方もある。
「米系投資ファンドやゴールドマン・サックスなど投資銀行が米軍の派遣を要請するように東電に求めた」。日本の金融界ではこんな情報が飛び交っている。東電経営陣が福島第一原発に自分たちで何とか対応しようとして、結果的に適切な手段をとるのが遅れ、株式が紙くずになる恐れを感じているからだ。官邸の頭越しに東電が米軍に派遣を要請したと言われるのには、実はそうした背景がある。実際、米国の動きは素早かった。米政府は航空母艦「ロナルド・レーガン」の派遣を決め、合計で海軍艦艇を20隻近く、被災地周辺の海上に展開した。福島第一原発に対しては、放射線防護の資材、訓練を受けた特殊部隊や原子炉冷却のために真水を運ぶ大型のバージ船(はしけ船)を送り込んだ。米軍の日本救援策には「トモダチ作戦」という名前がつけられたが、その「トモダチ」は日本の被災者だけでなく、ウォールストリートの「トモダチ」も含まれているとみた方がいい。

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