民間資金活用で財政負担はもっと減らせる

執筆者:柳川範之2011年5月22日

 東日本大震災が日本経済に与えた影響は大きく、今後被災地域復興のためには多くの資金が必要と言われている。政府は第1次補正予算を組んだが、それだけでは当然足りず今後も政府支出の規模は拡大していくことが予想され、どのように財源を確保するかが問題となっている。
 しかし、日本の財政状況は震災前からかなり厳しく、いかに財政を健全化させるかが大きな課題となってきた中での震災である。際限なく政府支出が膨らんでいけば、財政破綻を招きかねない。また、多くの投資を公共投資で行ない、多くの事業を国有事業で行なうということになっていけば、経済の停滞も懸念される。これらの問題を回避するために必要な戦略は、復興に民間資金をもっと活用することである。たとえ復興においてインフラ関連の投資が主なものになったとしても、民間資金の活用は十分に可能である。それによって財政負担を減らすことが可能になるだけでなく、民間の知恵と活力を生かした復興が可能になる。

すべてを政府支出で賄う必要はない

 インフラ関連の投資は、政府が支出をする公共事業によって行なわれるもので、それが民間資金とどう結びつくのか、イメージがわきづらいかもしれない。そこで、この点を単純な事例を用いて考えてみよう。
 経済学的には、インフラに関して公共投資が必要となる理由は、それが公共財的な性質をもつからという理屈で正当化されている。たとえば、投資費用が1億円、将来収益が5000万円のインフラ関連の事業プロジェクトがあったとしよう。これは明らかに投資費用のほうが高い案件のため、民間の資金を集めて投資することはできず、通常であればプロジェクトは実行されない。が、この事業には、周辺地域住民の利便性を大幅に高めるなど金銭的利益以外の社会的メリットが存在するとしよう。その場合には、その社会的メリットを考慮するとプロジェクトを実行したほうが、社会全体として望ましいということになり、国あるいは地方自治体が公共事業として投資することが正当化される。そして通常、1億円の投資費用すべてが(地方自治体まで含めた広義の意味での)政府支出によって行なわれ、その資金は税金あるいは国債発行によって賄われることになる。つまり、通常考えられているのは、1億円の費用を民間で出せるのか、政府が出すのかという二者択一の問題である。
 しかし、本来の選択肢はもっと幅広いはずであり、どちらか一方だけが出すことに限る必要はない。たとえば政府が費用のうち6000万円だけを支出することにし、残りの4000万円を民間金融機関が融資することにしたらどうか。この場合に将来収益をすべて民間金融機関に返済することにすれば、融資額は将来収益をだいぶ下回るため、ある程度の要求利回りを考えても金融機関は貸し出しをすることが可能になる。一方、政府支出額も1億円よりもずっと少なくてすむ。
 また、現実の投資では、将来収益が低いことだけが問題ではなく、収益にリスクがあることが問題になる場合も少なくない。たとえば、ある程度の確率で極端に低い収益になる可能性があるために、民間金融機関としてはそこまでのリスクがとれずプロジェクトが実行されないケースである。このような場合も、その事業が社会的にみて必要とされる場合、公共事業として投資される。しかし、本来はすべて政府支出で行なう必要はない。政府保証をつけて、返済ができないほど収益が落ち込んだ場合だけ、政府が肩代わりすることにすれば、民間金融機関が貸し出すことは可能になる。また、政府支出ではなく政府保証とした場合、収益が落ち込む状況が生じなければ、実際の政府支出額はゼロですむという点もメリットである。

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