7月3日の総選挙投票日直前になっても、自らが率いる民主党の支持率が首都のバンコクはじめ全国でも思うほど伸びていないことは、アピシット首相にとっても頭の痛いことだろう。
 2008年12月、国王支持を掲げるPAD(民主主義のための市民同盟)による大規模な反タクシン運動と国軍などに後押しされて政権に就いて以来、リーマンショックの後遺症を脱し、GDP(国内総生産)は10年度実績で8%の伸びを達成、低所得者支援、農家の所得保障、月額500バーツ(約1300円)の高齢者支援、公立学校における15年間の基礎教育無料化などを達成したにもかかわらず、タクシン派のプアタイ党に較べ、民主党への支持は低い。

タクシンの妹が「タイ初の女性首相」に?

プアタイ党勝利なら女性初の首相となるインラク女史(c)EPA=時事
プアタイ党勝利なら女性初の首相となるインラク女史(c)EPA=時事

 6月に入って各種の世論調査結果が発表されているが、「タクシン派のプアタイ党有利、民主党劣勢」でほぼ一致している。バンコクをみると33選挙区中、形勢有利区はプアタイ党が18で、民主党は6。全国規模で支持率をみると、プアタイ党の50%超に対し、民主党は34%前後。タイの下院議席は小選挙区(375議席)に比例代表(125議席)が加味された500議席。このままの勢いが投票日当日まで続けば、プアタイ党による単独過半数の可能性も考えられる。  じつはタイには全国政党が存在せず、民主党は南タイの政党であり、プアタイは東北・北タイを地盤とするように、多くが地域政党という性格が色濃い。少数政党は地方ボス議員を党首とする傘下議員の集まりでしかなく、こういった少数政党は総選挙での勝ち馬に乗って連立政権入りを目論む。プアタイ党有利が流れると、早くも現連立政権参加政党の中からプアタイ党との連立を模索する発言が飛び出す始末だ。  さらにプアタイ党はタクシンの末の妹で、一族傘下企業で経営を担ってきたインラク女史(44歳)を比例代表名簿トップに置き、「タイ最初の女性首相誕生を」とのイメージ作戦を積極展開し、6月中旬には民主党の強固な選挙地盤で知られる南タイに乗り込み、イスラム地区の自治拡大や貧困対策をぶち上げたのである。

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