バブル崩壊で大きくきしむドル基軸体制

執筆者:青柳尚志2011年8月26日
格好のスケープ・ゴートになったFRBのバーナンキ議長(c)AFP=時事
格好のスケープ・ゴートになったFRBのバーナンキ議長(c)AFP=時事

 大騒動の渦中にいるときは、騒動の全体像が見えないものだ。2011年8月に勃発した金融・株式市場の動乱と世界経済の変調。経営者も投資家も政治家も、大波と小波に翻弄され自分たちがどこに向かっているかの見取り図がつかめないでいる。  日本では円相場が一時、1ドル=75円台に上昇し最高値を更新したことから、超円高ばかりが話題になっているが、世界的にみれば今起こっているのはドル基軸体制の揺らぎである。それはいざというときは、経済も市場も何とか仕切れると思っていた米当局の動揺にほかならない。

「格下げ」でも投資資金が集中する米国債

 そんなはずじゃなかった。臍をかんでいるのは、2012年の大統領選で再選を目指すオバマ大統領だろう。議会共和党に妥協に妥協を重ね、8月2日までに米連邦債務の上限引き上げを実現し、政府の債務不履行(デフォルト)という最悪の事態は回避した。
 ところが、その直後の5日に米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、米国債の格付けを1941年以来初めて最上級のAAAから引き下げた。S&Pは財政の計算を2兆ドル(約154兆円)間違えている、と米財務省は指摘した。にもかかわらず、財政の悪化という大筋には変わりない、とS&Pは見切り発車した。
 8月22日、S&Pの社長交代が発表されたが、格下げ騒動との関係は定かではない。クルーグマン・プリンストン大教授ら左派の経済学者は、格付け会社の蒙昧(もうまい)と横暴に批判の筆を振るう。後の祭りである。地軸の微妙な揺らぎが地球環境に大きな影響を及ぼすように、米国債が最上級の格付けを失ったことはドルを基軸とする世界金融市場を揺さぶるのに十分だった。
 格下げの結果、起きたのは皮肉にも投資資金の米国債への集中だった。信用度が下がったはずなのに何故? いくつかの理由が考えられる。ひとつは、クルーグマン教授のいうように、格付けが信用度を測る物差しとして実態を表していないことだ。
 日本は過去に国債が相次いで格下げされたのに、いまだに国債利回りは1%そこそこではないか、と教授はいう。ごもっとも。だが今ごろになって、そんな指摘をしてくれても、証文の出し遅れのような気もする。米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月24日、日本国債をAa3(AAマイナスに相当)に格下げしたが、国債市場は無反応だった。格付けがイタリアやスペインより下となり、中国並みになったというのに……。

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