東京電力が衆議院の「科学技術・イノベーション推進特別委員会」に提出した「重大事故時運転操作手順書」は、表紙と目次のほか殆どが墨で塗りつぶされていた。同委員会の川内博史委員長は、これを不誠実な対応として激しく批判、マスコミもいっせいに東電叩きに走っている。

 福島第1原発の事故調査において、現場が手順書に従って対応したかどうか、その手順書に不備がないか、は重要なポイントである。だが、それを公表することには、別の観点からの熟慮を要する深刻な問題がある。

 近年、核セキュリティーに関する国際的な関心が高まり、核物質や関連施設に対する防護策が講じられている。今回の原発事故を契機に、原発の脆弱性があらためて浮き彫りになり、原子炉、制御系、周辺設備全般にわたる警備対策の見直しが課題となっている。

 水蒸気爆発や炉心のメルト・ダウンは、人為的に冷却系を破壊することでも起こりうる。管理が難しい放射性物質はそのまま撒き散らすにしても少量に限られるが、原発の電源を止めるという比較的容易な方法は、大きな社会的影響を与えることができる。テロリストに対して、今回の事故は、格好の教訓を与えたはずだ。

 それ故、原発の構造や設備の配置は秘匿しなければならない。まして緊急時の手順は、安全保障を担保する「作戦計画」に匹敵する貴重な情報と言える。その本質に触れず、得意顔で東電叩きに走る議員とマスコミに、国民を守る視点は感じられない。

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