野田政権が目論む「高所得者増税」の落とし穴
ウォーレン・バフェット氏と言えば、東日本大震災直後に「日本株は買い」と発言するなど、日本でも馴染みの深い米国の著名投資家だ。投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、世界有数の資産家としても知られる。そのバフェット氏が8月中旬、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した。いわく、「億万長者にやさしい議会によって長い間甘やかされてきた」と指摘、富裕層への増税を提案したのだ。 世界各国で国家財政が破綻の淵を彷徨う中で、巨万の富を持つ富裕層に対して増税すべきだという議論が広がりを見せている。欧州最大の財政赤字に苦しむスペイン政府は、9月中旬に、富裕税を暫定的に復活させることを決めた。英エコノミスト誌も最近になって「金持ち狩り」と題する特集を組んでいる。富裕層に負担を求める流れは世界的に強まっているのだ。
復興増税も「金持ち」が標的に
そんな流れを意識しているのだろうか。ここへきて日本での増税論議でも、照準はどうやら「金持ち」に当てられていることがはっきりしてきた。
政府の税制調査会は「復興増税」の導入を決め、これに続いて民主党の税調でも増税を承認した。あとは国会での議論の行方次第だが、もともと自民党執行部も財政再建に向けた増税には理解を示しており、最終的には国会も通過、増税が実施される公算が大きい。
実施時期は流動的だが、現時点では2013年1月からという案が有力だ。臨時増税とは言っているが、期間は10年以上に及ぶ予定で、実質的には恒久増税の色彩を帯びている。
「次世代にツケを回さない」「現役世代で薄く広く負担する」というのが復興税の当初の説明であった。震災直後に財務省OBなどが相次いでぶち上げたアイデアで、「連帯税」という人もあった。東西ドイツが統一した後に、東ドイツの復興を支援するために導入された増税にならっている。連帯という以上、ほぼ全国民が負担するイメージが強かった。
ところが、話が進むうちに、様子が変わってきた。政府税調の意見を受けて、即座に野田佳彦首相が消費税は除外するように指示したのだ。夏にまとめた社会保障と税の一体改革で、消費税率の引き上げに言及しているためだと解説されているが、それ以上に、民主党が政権交代以来、消費税の税率引き上げに際しては国民の信を問うと言い続けてきたことが大きいだろう。復興税を消費税以外にすれば、総選挙を経ずして増税ができるということだ。国民を埒外に置いたまま増税を実現しようというわけである。
記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。