怒る文化と謝る文化

執筆者:徳岡孝夫2011年10月18日

 鳩山由紀夫氏は総理大臣だったとき「国民のみなさまにお訴え致します」という丁寧過ぎる表現を発明し、頻繁に遣った。あまり繰り返すので、国民はそのうち「お訴え」は普通に「訴え」ているだけなのだと分り、それからは聞き流すようになった。  次に丁寧語を裏返した、罵倒語のことを、少し考えてみる。  日本語は世界でも稀な、罵倒語の貧弱な言語だといわれる。英語にはゴッデムから「母親とファックしたヤツ」まで多彩な罵倒語があるが、中国語の怒りの表現、また怒りに伴う罵倒語には、英語など遠く及ばぬ豊かな語彙があり、表現に伴って無限のニュアンスがあるという。  ちょっと気に障ったこと、ふと感じた不愉快を、さも怒髪天を衝く、または共に天を戴かずなど誇張して響かせる語彙のストックもある。中国人には、それを使い分ける術がある。    米国が新鋭F16戦闘機を台湾に売却しようとしたとき、中国政府は「強烈に」怒った。あまりの権幕に、オバマ米大統領は商談をキャンセルしてしまった。だが全面的な御破算ではないらしい。日本の新聞によれば「売却見送り」である。  日本語と英語の新聞しか読まない私も、なまじ漢字の通じる邦字紙の見出しを見た途端、「強烈? えらいこっちゃ」と感じた。

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