日本のリスク管理手法は30年遅れている(NRCのヤツコ委員長)(c)AFP=時事
日本のリスク管理手法は30年遅れている(NRCのヤツコ委員長)(c)AFP=時事

 今年3月、東京電力の福島第一原子力発電所の事故が起きた直後に、米国から大挙して来日した技術者の集団がある。その数は延べ100人近く。飛散した放射性物質による被曝を恐れ、慌てて日本を去る外国人が多い中で、次々と成田空港に降り立ち、福島第一原発の周囲に集結する一群は、異様でもあった。米政府の原子力規制委員会(NRC)を中心とする、原子力の専門家の精鋭部隊である。  NRCのグレゴリー・ヤツコ委員長(40)も3月28日に来日した。ウィスコンシン大学で素粒子物理学の博士号を取得し、米議会上院の民主党院内総務であるハリー・リード議員(71)をかつて政策スタッフとして支えた経歴の持ち主だ。  リード議員は米政界で反原発派の「うるさ型」として知られる有力政治家である。同議員の側近だったヤツコ氏は、2009年にオバマ大統領の指名で米国の原子力安全行政のトップの座に就いて以来、米国内の原子力施設に対して、徹底した安全規制の強化策を打ち出している。

米国の専門家を驚かせた「禁句」

 震災直後に危険な状況下で福島を訪れたNRCの一行は、ヤツコ委員長の指揮のもとで東電の福島第一原発でなぜ事故が起きたかを隅々まで調べ上げた。その結果をまとめた1冊の報告書がある。詳細にわたる技術的な分析も目を見張る内容だが、日本にとってとりわけ衝撃的な部分は、安全に関する行政と原子力関係者の“基本姿勢”や“組織の在り方”に言及した箇所である。米国の原子力専門家らが、ここで日本の「リスク管理手法」の致命的な後進性を指摘しているからだ。
 NRC関係者がこう証言する。「原子力安全・保安院や東電の担当者の口から、何の迷いもなく『想定外』という言葉が飛び出したことが、我々には極めてショックだった。リスク管理に携わる当事者である以上、それは決して言ってはいけない禁句のようなものだ」。

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