「両岸三地」の今後を占う香港行政長官選挙

執筆者:樋泉克夫2011年11月15日
江沢民派で有力候補とされる唐英年氏(c)AFP=時事
江沢民派で有力候補とされる唐英年氏(c)AFP=時事

 来年2012年には「両岸三地」と総称される中国、台湾、香港で、それぞれの政治指導者が交替する。中国(中華人民共和国)では胡錦濤総書記の後任は習近平でほぼ決定だろう。台湾(中華民国)では現総統で国民党主席の馬英九に、野党・民進党主席の蔡英文とヴェテラン政治家の宋楚瑜が挑み、目下、三つ巴の前哨戦といったところ。残る香港(中華人民共和国香港特別行政区)だが、2012年6月に2期目の任期が切れる曽蔭権(ドナルド・ツァン)の後任を巡って静かな戦いが展開されている。  国際社会に対する政治的影響力についていうなら、香港は中国や台湾に較べ限定的であり、政治指導者に対する注目度も小さいことは否めない。だが両岸三地が経済的補完関係にあり、3人の指導者の言動が微妙に絡み合っていることを考えると、次の行政長官に誰が選ばれるかは、今後の香港はもちろんのこと、両岸三地の将来像を考える上で重要なポイントとなるはずだ。

北京の意向に左右される間接選挙

 行政長官は民選ではなく、北京の中央政府が香港の企業家、専門家、労働組合、慈善活動家、教育者、宗教者、政界関係者などから任命する「広範な代表性を備えた選挙委員会」(当初は800人。現在は1200人に拡大)による間接制限選挙によって選ばれる。香港の民意を取り込む形ではあるが、実質的には北京の意向に左右されるだけに、当初から香港の民主派は直接選挙を求めていた。だが特別行政区とはいえ、香港は中国の一部である。その要求を北京が容認する可能性は極めて低いといわざるをえない。「一国両制」の現実というものだろう。
 行政長官選任の歴史を振り返ってみると、1997年の返還を前に自薦・他薦で多くの候補者が下馬評に上っていた。その中から海運会社を経営し、植民地政府での行政経験を持つ董建華が初代長官に選ばれたわけだが、やはり最大の勝因は当時の北京で絶対的権力を揮い始めた江沢民の存在だったといえる。董は上海出身であり、江の権力基盤であった上海閥に近く、台湾の国民党政権中枢に人脈を持つ。そのうえ北京は以前から董の企業に肩入れしていた――こういう背景があればこそ、香港で最大・最強の政治的影響力を持つ企業家たちが挙って董支持を表明したのも頷けるはず。彼らは政治という商機に賭けたのだ。

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