国立シンガポール大学東亞研究所の王武主席は、これまでシンガポール、マレーシア、香港、それにオーストラリアなどの大学で教壇に立ち、時に大学行政に携るなど、まさに華人ならではの人生を送っている大学人であり、東南アジアの代表的な華人オピニオン・リーダーといえるだろう。時に華人の歴史を、時に東南アジアと中国の関係を論ずるが、鄧小平が進めた改革・開放政策について、最近、「シンガポールの経験は中国から役人を派遣して詳細に研究すべきだ。直接的に学ばないまでも、少なくとも研究する必要はある。李光耀(リー・クワンユー)の成功要因のなかに中国が必要とするものがあるはずだ――李光耀に会った後で鄧小平はこう感じたと、私は理解しています」と語り、中国の現在をもたらした背景に、シンガポールの成功体験に学ぼうとした鄧小平の姿勢があるとの考えを明らかにした。

 おそらく、鄧小平の指示だろう。いまから20年ほど前の1992年7月、中国の党・政府幹部や新聞記者などで構成された赴新加坡精神文明考察団がシンガポールを訪問した。彼らは帰国後の93年1月、共産党傘下の紅旗出版社から『新加坡的精神文明』を出版している。シンガポール考察の報告書ともいえる同書によると、

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