プーチンはなぜ辞めない

執筆者:名越健郎2012年1月11日

 元スパイで秘密主義のウラジーミル・プーチン首相には謎が多いが、最大の謎はなぜこれほど権力に固執するのかにある。2期8年の大統領と4年の首相で辞めていれば、ロシアに安定と繁栄をもたらした指導者として歴史に名を刻めたはずだ。

 それが大統領選再出馬を表明したため、10万人デモで「プーチンのいないロシアを」のシュプレヒコールを浴びた。プーチン氏はロシア史上初めて、なりたくないのに、めぐり合わせで最高指導者になった異色の人物。本来、権力に固執しないはずなのに、今では権力亡者になってしまった。

 その理由として、改革派ラジオ局「モスクワのこだま」のベネディクトフ編集長は、「プーチンはやる気が十分あり、使命を抱いている。それは、ロシアを世界に尊敬される近代国家にすることだ。まだ自分の使命は終わっていないと考えている」と話した。しかし、これでは綺麗ごとすぎる。

 伝記作家のリハルト・ルリエ氏は「プーチンは活力ある59歳であり、辞めた後で回想録を書いたり、財団理事長を務めるのはそぐわない」と指摘した。確かにその通りだが、これも説得力がない。

 むしろ、「クレムリンを去れば、チェチェン戦争や汚職の横行など、過去の責任をすべて負わなければならないからだ」とするシェフツォワ・カーネギー財団モスクワセンター主任研究員の見解が的を射ているかもしれない。

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