「東電解体」はすでに始まっている

執筆者:杜耕次2012年1月18日

 東京電力の「一時国有化」が視野に入ってきた。福島第1原子力発電所の事故発生から10カ月が経過。15万人に及ぶ避難住民や風評被害を受けた周辺地域への損害賠償、福島県内の原発10基の廃炉費用、長野や山梨、静岡など遠隔地の県にまで広がりつつある除染のコスト――。膨らむ一方の事故処理費用が東電の資産を容赦なく食い潰している。「円滑な損害賠償」を大義名分に昨年9月に発足した原子力損害賠償支援機構も倒産阻止の“救世主”にはなり得ない。政府やメディアは意図的に言葉遣いを避けているが、「国有化」とはつまり「破綻」であり、すでに国内最大の独占企業解体のシナリオが着々と進みつつある。

国有化=破綻

 昨年末から東電を巡るマスコミの報道合戦が一段と熾烈になっている。この1カ月余り、東電ネタの各紙のスクープは以下の通り。
「東電、火力発電所売却へ 賠償費捻出 『自前で発送電』転換」(2011年12月7日付読賣新聞)
「東京電力、実質国有化へ 資本注入1兆円 政府、改革を主導」(12月8日付毎日新聞)
「東電、実質国有化へ 官民が2兆円支援」(12月21日付読賣新聞)
「東電、企業向け値上げ 来年4月、2割前後 家庭向けも検討」(12月22日付日本経済新聞)
「東電の経営権取得検討 原賠機構、普通株で資本注入」(2012年1月7日付日本経済新聞)
 もちろん、報道の背後には東電自身や政府、金融機関など関係筋の活発な動きがある。火力発電所の売却や値上げについては東電がすでに認めているが、「国有化」(事実上の破綻)については、事態はまだ流動的。経営の自立性(民営形態)を何としても維持したい東電に対し、事故責任を盾に東電を屈服させて国民の支持を得たい政府、一方で約4兆円に達する東電向け貸出債権の回収しか頭にない金融機関。そこから透けて見えるのは、事態の深刻さを矮小化し、目先のハードルを越えることだけを考えているようにしか見えない、相も変わらぬ関係者や当局の姿勢である。

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