中国代表監督に就任した「イチローの元監督」

執筆者:ブラッド・レフトン2012年1月19日
2008年5月、試合前の練習で笑顔を見せるイチロー(右)と当時シアトル・マリナーズ監督だったマックラーレン氏 (C)時事
2008年5月、試合前の練習で笑顔を見せるイチロー(右)と当時シアトル・マリナーズ監督だったマックラーレン氏 (C)時事

 ジョン・マックラーレン氏(60)にとって、「今回のチーム」にはイチロー選手は不要だ。  長年、シアトル・マリナーズでベンチコーチや監督(2007-08年、いずれもシーズン途中の就任・辞任)としてイチローと親しい関係を築いたマックラーレン。ベンチで他の選手がイチローのバットを通りがかりにうっかり蹴飛ばして倒すのを見て、イチロー専用の「バット立て」を作ってやるなど、細やかな気配りの持ち主だ。もちろん、野球に対する姿勢も素晴らしく、イチローがアメリカで最も信頼を寄せた指導者のひとりといってよい。そのマックラーレンが、2013年ワールドベースボールクラシック(WBC)に向け、中国代表野球チームの監督となった。

“振り子打法もどき”

 中国代表候補の27選手を初めて指導したのは、米フロリダ州を舞台に2011年秋に開催された教育リーグ。メジャーリーグの多くの球団の若手選手を集め、4週間にわたって開かれたそのリーグに、中国選手たちも参加したのだ。そこで、イチローに大きな影響を受けている彼らを見て、マックラーレンは驚かされた。
「ここに来た中国選手の3分の1は、イチローの振り子打法を真似していました。もっとも、彼らはイチローの打法を全然理解しておらず、テレビでやっているのを見て真似していただけで、試合では全く機能していませんでした。見かねた私は、振り子打法が、ピッチャーの投球とタイミングを合わせる方法の一つであることを教え、どのように使うかを説明した上で、彼らの“振り子打法もどき”を改良していったのです」
 振り子打法と言っても、イチローがオリックス在籍時に見せていた右足を大きく上げるフォームではなく、アメリカに移って以降の打ち方だったようだ。打席に入って右手でバットをかざすところから始まる、あの一連の「形」だけを、中国選手たちはコピーしていたわけだ。
 見かけではなく真の技術の部分を選手たちに理解させ、その上で必要なら自分のフォームを見直させることは、マックラーレンにとって難しい任務の一つだ。さらに彼は、選手それぞれの体格に合った道具の選び方や、野球の動きに対応できるような体作りの方法を、箇条書きにして渡し、教え込んでいる。ひとことでいえば、道のりは遠いのだ。
 だが、そんな中、大きな励みとなっていることもある。中国は、2013年のWBC大会への出場が既に確実になっているのである。
 第1回、第2回と日本が連覇したWBC。第3回大会には16の国々が出場するが、今回、新たなルールで、2009年の大会で1勝以上を上げた12チームには、すでに出場権が与えられた。中国は東京ドームで台湾を4対1で下すという、当時としては大番狂わせを演じたため、日本、韓国とともに本選アジアラウンドに再び姿を現わす。もっとも、日本は、収益の分配などをめぐってメジャーリーグベースボール(MLB)と条件闘争を続けており、現時点では不参加の可能性まで示唆している。もったいない話で、むしろ積極的に参加していく方が、結局は主導権も握れるのではないか。ともあれ、アジアからの4番目の国に関しては、2012年秋の予選で決定される。16カ国・4地区で競い合うその新予選ラウンドでは、初参加となるイスラエル、タイ、フィリピンなどの国々、さらに台湾、カナダ、パナマ、南アフリカといった前大会で勝利できなかったチームが、最後の4枚の切符を賭け、戦う。

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