工業用内視鏡で撮影された2号機の格納容器内の様子。核燃料の位置や状態は今も分からない[東京電力提供](c)時事
工業用内視鏡で撮影された2号機の格納容器内の様子。核燃料の位置や状態は今も分からない[東京電力提供](c)時事

 このまま日本で原発を再稼働させたら、今後10年以内に、東京電力福島第一原子力発電所と同じような事故がまた起こる――。  原子力推進政策の総元締めともいえる政府の原子力委員会(近藤駿介委員長)の小委員会が、日本の原発が過酷事故を起こす「事故発生頻度」を試算したところ、抜本的な安全強化策を施さないまま、原発を安易に再稼働させると、最悪の場合、日本にある原発のどれかが、10年以内に放射性物質を大量に飛散させる過酷事故を起こすという、衝撃的な結果が出た。  福島第一の事故を踏まえて、過酷事故のリスクコストを試算し、原発の発電原価に反映するのが目的だったが、その計算過程で、とんでもない副産物が飛び出してきたことになる。これが現在の日本の原発が抱える事故リスクの科学的評価だとしたら、ストレステストに合格すれば、原発の再稼働はOKなどという、おままごとみたいな手続き論は、もはや全く意味を持たない。

「試算詐欺」に隠れていた驚きの前提

 昨年の10月25日、原子力委員会の原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(鈴木達治郎座長)が、 「原子力発電所の事故リスクコストの試算」を発表した。過酷事故を起こした場合の、損害賠償や除染にかかる費用をはじいて、それを原発の発電原価に乗せようという試算である。
 賠償や除染の費用は、最大でも1kWh当たりの発電原価を1.6円上昇させるだけ、という結論だった。もともと原発の発電原価は、政府と電力会社が費用を過小に見積もって「創作」したモデル試算の産物だ。1kWh当たり5-6円というその値に、1.6円を上乗せしても、依然として原発は他の電源に比べて割安、ということになる。原子力ムラの懲りない面々による予定調和の図式に、ぴったりはまる結論だった。
 それゆえに、メディアの扱いも軽く、賠償費用を含めても原発は割安と強調するか、過酷事故では発電原価が2割以上上がるとするかの違いはあっても、あまり細部には突っ込まなかった。
 試算は福島第一の賠償や除染費用を5兆円と見込むなど、常識的な予想の10分の1にも満たない過小な想定をしていた。それを見て筆者も、例によって例のごとくの、原子力ムラの得意技、現実を隠すための「試算詐欺」とみなし、熟読しなかった。
 昨年末に知人と一杯やった時、結論よりも試算の前提、事故発生頻度の評価が「ミソ」だと示唆された。

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