上場維持で市場の信用が守れるのか(東証の斉藤惇社長)(c)時事
上場維持で市場の信用が守れるのか(東証の斉藤惇社長)(c)時事

「間違った判断だとか、意外だったとの声はあまり聞こえていませんね」  1月31日、定例の記者会見に臨んだ東京証券取引所の斉藤惇社長は、東証の自主規制法人が1月20日にオリンパス株の上場維持を決めたことについて質問されると、いつもながらの淡々とした口調でこう答えた。それが真実なのか、それとも斉藤氏の一流のおとぼけなのかは別として、東証と今の日本の証券市場が抱える問題を如実に示すひとコマだった。  実際、株式会社になって以降の東証の社長には、上場廃止を決める権限はない。営利企業である東証の利害得失が、企業の上場など市場の公正性を歪めることがないようにという判断から、東証から独立した自主規制法人がそれを行なうことになったためだ。その自主規制法人の理事長には元財務次官だった林正和氏が天下っており、むしろ規制当局である霞が関の影響力が大きい。

東証に届いたのは「利害関係者」の声のみ?

 では、決定権のない東証の社長には、誰もオリンパス問題について意見を言って来なかったのかというと、そんなことはない。
 昨年11月17日、アジア・コーポレート・ガバナンス・アソシエーション(ACGA)という団体が、斉藤社長宛にオリンパスの上場維持を要望する文書を提出している。オリンパス経営陣が巨額の損失隠しを認めたのが11月8日だったから、それからわずか9日後ということになる。文書にはこう記されていた。
「経営者の行為によって(株価の下落などで)株主は十分に苦しんでおり、上場廃止で株主がさらに処罰されるのは不公正だ」
 悪いのは経営者なのになぜ株主が罰せられなければならないのか、というわけだ。一見正論だが、これはコーポレート・ガバナンス(企業統治)の発想自体を否定する理屈だ。この点については後で説明しよう。
 いずれにせよACGAのメンバーの多くは資産運用会社の幹部で、オリンパスの株主には多くの外国人機関投資家が名を連ねている。とうてい中立な第3者とは言えない。
 野村証券出身で国際派の斉藤氏には、外国人の友人が少なくない。ACGAのほかにも、斉藤氏に接触してオリンパスの上場維持を要望した人は多くいたという。つまり、斉藤氏に寄せられた要望のほとんどは、利害関係のある当事者からの声だったと思われる。
 それならば、オリンパスの上場維持が間違いだ、などという声が斉藤氏の耳に入るはずはない。取材に押しかけるジャーナリストの中には疑問を呈する声もあったろうが、斉藤氏からすれば雑音にも満たないものだったのだろう。

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