株価上昇でも止まらない日本の溶融
存在の耐えられない軽さ(L'insoutenable légèreté de l'être)――。冷戦下、フランスに亡命したチェコ作家が30年近く前に発表した小説のタイトルを、つい思い出してしまう。北朝鮮が着々とミサイル発射実験を準備するなか、お隣の韓国・ソウルでは核サミットを舞台に米中露韓の間で活発に首脳会談が開かれた。 片や日本の野田佳彦首相は、自ら政治生命を賭けると宣言した消費税引き上げ法案をめぐる与党内審査に足元をすくわれた。かろうじてサミットには出席したものの、各国首脳とは立ち話をしただけで、北朝鮮を除く6カ国協議メンバーの首脳会談の輪の外にいた。外交も安全保障もあったものではない。民主党の目を覆わんばかりの醜態は、いかんなく日本という国家の溶融を示している。
日本経済の回復は本物か
それにしても、奇妙な風景である。今年2月を陰の極として、日本の株式市場は上向きに転じ、経営者や投資家の間には春めいた雰囲気が広がっている。円高修正が進み、日経平均株価は1万円の大台を回復した。昨年3月の東日本大震災など忘れたかのように、日本経済は回復過程に入ったのだろうか。
政治不在は何度もお目にかかった光景である。何が雰囲気を明るくしているのか。何よりも、企業業績の悪化、海外経済の後退、国際金融不安といった昨年の夏以来の悪材料が、マーケットに織り込み済みとなったことが大きい。そんななかで、欧米に続いて日本が本格的な金融緩和に踏み切ったことで、市場にあく抜け感が出た。
トヨタ自動車を例にとると、為替相場が1ドル当たり1円上下すると、営業利益は300億円程度変動する。それまでの想定為替レートが1ドル=77円あたりだったとすれば、実際の円相場が82円台で推移すれば1500億円の利益押し上げ要因になる。
そればかりでない。2008年のリーマン・ショック以来、米国でのトヨタ車リコール問題、東日本大震災、タイ大洪水と踏んだり蹴ったりのなかで、トヨタは必死にリストラを進め損益分岐点比率を下げてきた。おかげで、売上高が少しでも上向けば、その分だけ利益が増える収益構造となったのである。
トヨタばかりでなく、他の多くの日本企業も同様である。その意味で、12年度決算でまず注目すべきは、各社の売り上げ見通しである。増収の見通しがハッキリしてくれば、相当な利益の伸びが見込まれるといってよい。日本経済は企業ベースでみれば、結構しっかりしている。そんな見立てが、日本株を支えている。
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