シャープを買った郭台銘という男

執筆者:野嶋剛2012年3月31日

 シャープが台湾の鴻海精密工業の出資を受け入れる事実上の「シャープ救済」のニュースが世界を駆けめぐった。鴻海精密工業はアップルのiPadやiPhone、ソニーのテレビなどを一手に引き受けるOEM、あるいはEMS型の超大手企業で、その売上げは日本のパナソニックに匹敵する。

 日本製造業の凋落という意義づけはさておき、このシャープを買った鴻海精密工業のトップ、郭台銘という人物は日本でほとんど知られておらず、今回の一連の報道でも突っ込んだ人物紹介がなかったのが残念だった。

 今回、シャープ本体の株式10%の引き受けは鴻海精密工業で行なったが、堺のシャープ主力工場の46・5%を郭台銘は個人名義で660億円出して買い取っている。

 資産100億米ドルと言われる男にとっては懐をほとんど痛めない買い物だったのだろう。この辺の個人と企業のあいまいさは、いかにも台湾的、あるいは華人的なオーナー企業のビヘイビアであるように感じる。

 ともかく、鴻海という企業イコール郭台銘であり、郭台銘イコール台湾の電子産業という部分があるからで、郭台銘についてもっと日本人は知っておくべきである。

 1950年、台北で警察官の父親の長男に生まれ、学歴は高校までしかない。その後、工場や運送会社などで働いていたが、25歳で母親から借りた10万台湾ドルを元手に小さなゴム工場を立ち上げ、テレビの部品やコンピューターの部品の製造を手がけながら企業を大きくしていった。

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