「原子力規制庁」の設置を急ぐ霞が関の本音

執筆者:磯山友幸2012年4月3日
原子力規制庁に「待った」をかけた国会事故調の黒川委員長(c)時事
原子力規制庁に「待った」をかけた国会事故調の黒川委員長(c)時事

 政府は、環境省の外局として新設する原子力規制庁の4月1日発足を断念した。すでに関連法案を国会に提出しているが、野党が規制庁の独立性が乏しいと問題視しており、審議入りのメドが立っていないためだ。国会が設置した東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の黒川清委員長(元日本学術会議会長)が法案の閣議決定を痛烈に批判する声明を出したことも響いている。国会事故調は事故原因を究明したうえで規制組織のあり方を提言することになっているが、その提言を出す前に政府が先回りして組織を変えるのは「理解できない」(声明文)というわけだ。国会の権威を踏みにじりかねない法案を政府が出し急いだ理由は何か。国会事故調の調査が進むにつれ、その本音が見えてきた。

“役に立たなかった”連絡役

 3月28日、参議院議員会館のホールで、国会事故調の第8回委員会が開かれた。この日は参考人として東京電力フェロー(社長に技術的助言をする顧問職)の武黒一郎氏らが招かれ、ヒヤリングが行なわれた。武黒氏は東電で原発事業に長年携わり副社長まで務めた人物で、事故直後に首相官邸からの要請で東電が官邸に派遣した。武黒氏によれば、昨年3月11日の午後4時-5時の間に官邸に到着、15日の昼まで官邸に居続け、首相への説明などに当たった。
 武黒氏は何のために首相官邸にいたのか。外部からみれば、東電と官邸をつなぐ責任者、つまり、東電が持つ情報を首相らに伝え、首相らの指示を東電に伝える情報ハブだったのではないかと思うだろう。だが実態はまったく違ったという。
 武黒氏の説明では「技術的説明ができる人を」という官邸の要請で出向いたが、官邸で通された控え室は携帯電話も入らず、通信手段がなく、東電本社との連絡にも事欠いた。不思議な事に東電も武黒氏を送り込んだまま情報を送らなかったのだ、という。
 国会事故調の委員のひとりが「何のために官邸に行っておられたのか」と語気を荒らげる場面があった。すると武黒氏は「(自身の官邸での)役割そのものは未だにはっきりしない。(役割を)十分に果たせたかと言われれば、自分自身でも歯がゆい」と淡々と述べたのだ。委員会の行なわれたホールで聞き入っていたメディア関係者や一般傍聴者は、一様に言葉を失った感じで、静まり返っていた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。