西太后時代の再来か

執筆者:徳岡孝夫2012年4月12日

 中華文化圏(むろん日本を含む)に暮している限り、人は汚職をway of life として受け入れなければならない。賄賂を出す必要に迫られた場合、つまらぬ良心に相談したりせず、さっさと出さなければならない。ずっと前から私はそう信じ、その常識に添って進退してきた。  最も少額の賄賂。たとえば私が家族と共にバンコクに住んでいた1960年代のことである。タイに住む外国人は、2週間ごとに入管に出頭して旅券を示し、滞在期間を延長してもらわねばならなかった。  それを3度やって8週目の終わりが近づくと、いったんタイ国外に出て、そこのタイ大使館・領事館で一時滞在許可を新たに発行してもらってタイに入国し直す。私がどんなに忙しくても、また子供に熱があっても、出国しなければならない。手続きをする部屋からは、入管法に違反して捕まった連中の入った檻が見える。熱帯の国だから、収監者は全員がパンツ一丁の雑居房である。  2週間ごとに会うから、入管の役人とは顔馴染みになる。向こうはお役人、私の旅券を調べながら話す彼らの、下手な英語にも相槌を打たねばならない。  スタンプを押す前に彼は言う。 「うちは、いま裏庭に仏様の祭壇を建ててるんだよ」

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