ミャンマー改革、第2段階へ

執筆者:深沢淳一2012年4月16日
スー・チー氏が率いるNLDは補選でUSDPを圧倒(c)AFP=時事
スー・チー氏が率いるNLDは補選でUSDPを圧倒(c)AFP=時事

 ミャンマーは今、1年で最も暑い時期を迎えている。ヤンゴンの最高気温は日中、40度近くまで上がり、街角の野良犬も、木陰でつらそうに息をしている有り様だ。外出が苦痛になる酷暑にもかかわらず、その日、国民民主連盟(NLD)の本部前は赤いTシャツを着た人々が道路を埋め尽くし、汗だくになりながら、深夜まで選挙勝利の歓喜に酔いしれた。  4月1日に行なわれた議会補選で、アウン・サン・スー・チー氏が率いるNLDは、擁立した44人の候補者のうち、スー・チー氏を含む43人が当選した。補選は下院37、上院6、地方議会2の計45議席を対象に行なわれ、17党から168人が立候補した。NLDは実に95%の補選議席を獲得したことになる。

一気に噴出した「スー・チー待望熱」

 NLDが圧勝した最大の要因は、言うまでもなくスー・チー氏のカリスマ性だ。スー・チー氏が出馬したヤンゴン近郊にあるコムー地区。中心部からは、ヤンゴン川をはさんで南東に位置する農村地帯だが、付近に橋がなく、車だと大きく迂回して2時間ほどかかる。その陸路も、雨期には洪水で寸断される。
 補選当日、早朝から続々と投票所を訪れる住民は、誰もが「スー・チーさんなら、この国を変えてくれる」と異口同音に語った。他のNLD候補者が出馬したヤンゴンの投票所でも、市民は同様にスー・チー氏への変革の期待を口にした。
 NLDは1990年の総選挙で圧勝したが、軍政は結果を無視して居座り続けた。民政移管に備えて2010年に行なわれた20年ぶりの前回総選挙では、今度はNLD側が「公平な選挙が保証されない」と選挙をボイコットした。その結果、軍政の翼賛組織を継いだ連邦団結発展党(USDP)が組織力と資金力をバネに、小規模な民主政党や少数民族政党を抑えて圧勝を収めた。
 今回の補選は、NLDとUSDPが初めて事実上の一騎打ちを展開する構図になった。有権者にとって、本来なら前回総選挙で投じるはずだったNLDへの1票を、ようやく行使できる機会が巡ってきた。NLDの圧勝と、その裏返しであるUSDPの惨敗は、庶民の間に鬱積していた軍政への反発や批判と、スー・チー氏に民主化改革を託そうとする意志が、22年ぶりに投票行動として具現化されたものだ。それが90年総選挙の再来といえる現象をもたらした。
 軍や政府関係者が有権者の大半を占め、USDPが優勢と見られていた人工首都のネピドーですら、NLDは議席を総取りした。「これほどの勝利は予想していなかった」とあるNLD幹部が実感を込めて振り返るほど、国民の間に長く潜在していた「スー・チー待望熱」は補選で一気に噴出し、USDPを圧倒した。

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