セルビアの首都ベオグラードを3年ぶりに訪れたのは、今年1月のことだった。核不拡散問題の取材でわずか2日間の滞在だったが、旧知のジャーナリストに街を少し案内してもらった。変化と言えば、ドナウ川の支流に新しい橋が架かった程度で、街中の古びたビルは相変わらず。期待されていたロシアからの投資も進んでないようだ。「何の進展もないね。失業者だらけで、生活は苦しくなるばかりだよ」とジャーナリストはぼやいた。

 そのセルビアの大統領選決選投票が今月20日にあり、大方の予想を裏切って、民族派「セルビア進歩党」のトミスラブ・ニコリッチ氏(60)が小差で当選を果たした。事前の世論調査では、欧州派の現職ボリス・タディッチ氏(54)が58%対42%で圧勝の様相だっただけに、大番狂わせだ。低投票率が生んだ事件だと考えられる。

(2008年大統領選でのニコリッチ氏。この頃は右翼ポピュリストと呼ばれていたが……)

 ニコリッチ氏は、大セルビア主義を掲げる右翼民族政党「セルビア急進党」の元幹部で、ユーゴスラビア時代にはミロシェビッチ独裁政権下で副首相を務 めたこともある。2000年の独裁崩壊後、04年、08年と続けてセルビア大統領選でタディッチ氏に敗れた。一般的にはポピュリストの政治家と見なされて きた人物だ。

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