議員はみんな反対「首相公選制」が進まない理由

執筆者:野々山英一2012年5月28日
首相公選制を打ち出した橋下氏 (C)時事
首相公選制を打ち出した橋下氏 (C)時事

 今ほど政治家や政党が国民から見放されている時はなかったのではないか。  小泉純一郎氏が首相を退任した2006年以来、毎年首相が交代。09年の衆院選で圧勝した民主党は、国民の期待に全く応えられない。片や自民党も支持を集めきれず、「誰がやっても同じ」という失望が国民に蔓延している。  その反動で、永田町から遠い位置にいる橋下徹大阪市長への期待が高まっている。その橋下氏が代表を務める大阪維新の会が「維新八策」の中で首相公選制をぶち上げた。公選制になれば、「永田町の論理」に縛られることなく、全国的に地名度の高い橋下氏のような人物がいきなり首相になることも可能だ。ということもあり、永田町内外で、にわかに公選制論議が取りざたされ始めている。

「憲法改正」のハードル

 5月9日には民主、自民、公明、みんなの4党の有志による議員連盟「日本型首相公選制を実現する会」が勉強会を開き、小泉政権時代に「首相公選制を考える懇談会」の座長を務めた佐々木毅・元東大総長が講演した。
 首相公選制は、国民の投票で直接首相を選ぶ制度で、候補者は「国会議員に限らない」とする考えが一般的。立候補の要件として「一定数以上の国会議員の推薦」などの条件がつけられることがあるが、非議員が首相になる道が開かれることになる。逆に「国会議員は首相選に出馬できない」と制限すべきだと主張する推進論者もいる。
 国会議員の投票で首相を決める今の議院内閣制と違い「自分が選んだ」という意識を国民が持つことができる。これまでの政治の流れをみると、政治不信、政党不信が強くなると公選制を求める意見が高まる傾向がある。
 多くの国民も、直接投票で首相を選んでみたいという思いを持っていることだろう。だが、導入するにはいくつかの高いハードルがある。最大の問題は憲法との関係だ。
 憲法では67条で「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」と明記されている。国民が直接首相を決める公選制になると、67条を中心として第5章「内閣」部分を全面改正する必要が生じる。
 天皇制との関係も議論となる。天皇は憲法1条で「国民の象徴」と位置づけられ、対外的には「事実上の元首」の役割を担っている。首相が公選で選ばれ大統領に近い地位になると、どちらが元首となるか。
 公選制導入論者の中では「元首の役割は天皇」という意見が多いが、そう主張する人たちの中には「1条で天皇が元首であることをきちんと書き込むべきだ」という意見もあり、やはり憲法改正の議論が必要になってくる。

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