ヨーロッパの「英語公用語化」問題

執筆者:大野ゆり子2012年6月5日

 楽天やファーストリテイリングという成長企業が、2010年にこぞって打ち出した英語の社内公用語化。グローバル展開を目指す企業が社員の英語教育とどう向き合っていくのか、というテーマはヨーロッパでも関心が高い。今年になってから、英フィナンシャルタイムズ紙は、この話題で何回かコラムを載せている。

英語公用語化の効用

 例に挙げられていたのは、楽天のほか、たとえば中国のPCメーカー、レノボ社だ。同社が2005年にIBM社のPC部門を買収した直後に、公用語が北京語から英語になったという。アクセントや間違いがありながらも、今や英語で多弁に話すようになった人事部長が、「当時は一言も話せず、自分が馬鹿に思え、人生で一番辛い時期だった」と、英語公用語化を振り返る。
 また、「言葉の変化が起こす心理的なストレスは、軽視されるべきではない」とインタビューに答えているのは、「外国語社内公用語化」の研究をしたフィンランドの大学の国際経営学教授。この教授は、フィンランドとスウェーデンの銀行が合併した際に、社員への聞き取り調査を行ない、職場の言語と心理の関係を追った実績がある。フィンランド人は学校でスウェーデン語を学ぶので、合併後の会議はスウェーデン語と決まった途端、フィンランド人の士気が下がり始めた。会議での発言が減り、交渉を避け、転職者が増えてしまったという。その後、この銀行がさらにデンマークの銀行と合併。公用語が「英語」となった途端、問題は解決した。全員が「英語」という外国語で「同じ土俵」に乗り、劣等感なく「等距離」でコミュニケートするようになったからだという。

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