「人権」に揺れるサッカー欧州選手権
6月8日から始まるポーランド・ウクライナ共催のサッカー欧州選手権(ユーロ2012)の開幕戦は、新ワルシャワ国立スタジアムで行なわれる開催国ポーランドとギリシャの一戦である。まるで、大向こう受けを狙う興行主があえて仕組んだかのような開幕戦だと言えるかもしれない。
開幕戦は「優等生vs.問題児」
ギリシャが欧州を、否、世界経済を奈落の底に引き摺り込もうとする問題児と化していることはあえて説明を要しない(そして運命の17日のギリシャ再選挙まで残る日数はわずかである。緊縮を拒否する急進左派連合が第一党となる可能性は依然小さくない)。
片やポーランドは、信用危機に苦吟する欧州の中で好調な経済を誇る数少ない国の1つであり、「欧州の優等生」という形容が常套句となっている。通貨ユーロの威信が低下を続ける危機の渦中、ポーランドは欧州とユーロ圏の命運を担う「希望の星」と持ち上げられる。
そんなポーランドとギリシャという明暗を織り成す国同士の開幕戦は、欧州の未来にとってどこか暗示的な試合になるかもしれないと言ったら、大袈裟にすぎるだろうか。
ウクライナへの批判集中
優等生と問題児という組み合わせなら、共催国のポーランドとウクライナも同じ構図を描く。 冷戦終結後、経済改革の険しい道を歩み、今日の「奇跡の発展」を成し遂げたポーランドが温かな喝采を浴びているのと対照的に、ウクライナには批判と叱責が集中している。 最大の問題となっているのはウクライナの劣悪な人権状況である。なかんずく、獄中のティモシェンコ前首相に対するウクライナ当局の扱いが国際的な懸念の的になっている。椎間板ヘルニアに苦しむ前首相がきちんとした治療を受けられないどころか、ウクライナ当局によって手荒な扱いを受けている疑惑が浮上するや、欧州諸国は一斉に非を打ち鳴らし、複数の国々がウクライナで開催される試合観戦の「ボイコット」を表明するに至った。 ウクライナでの観戦見送りを表明したのは、フランスのオランド政権、欧州連合(EU)のファンロンパイ首脳会議常任議長(EU大統領)、欧州委員会のバローゾ委員長、オーストリア政府、スロベニア、チェコ、エストニアの各首脳らである。旧東独出身の牧師で人権問題に鋭敏なドイツのガウク大統領は、5月半ばに予定されていたウクライナ訪問を早々と中止した。まだ正式に発表されていないが、メルケル首相もボイコットを検討していると伝えられる。 ドイツは、ティモシェンコ前首相側が暴行によるとみられる腹部や腕の傷痕の写った写真を公表したことにいち早く、そして鋭く反応した。これにウクライナ外務省は不快感を隠さず、「ドイツのやり方は冷戦時代そのままだ」と非難し、ただでさえ難しいと言われるドイツとウクライナの関係は急速に冷え込んだ。ドイツ政界からは、ウクライナで予定される決勝を含む試合をドイツで代理開催せよとする主張も飛び出した。ウクライナ政府高官は「ドイツ企業への報復」を警告し、両国の応酬はヒートアップした。
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