「反EU」で支持を広げる右翼・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(c)AFP=時事
「反EU」で支持を広げる右翼・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(c)AFP=時事

 冷戦時代、人々の価値観を支配したのは「東西」の対立構造だった。冷戦崩壊から20年を経て、現在の社会に存在する主要な対立構造は「上下」だといえないだろうか。  対立の軸となるのは「グローバル化」だ。グローバル化を積極的に受け入れるか、拒否するか。その判断は、教育水準としばしば結びついている。先進国家で は「教養と知性と所得に恵まれ、合理的な判断が可能で、新たな挑戦を恐れない人々」と「教育にも仕事にも恵まれず、自分の置かれた環境に不満を抱きつつ、 今ある生活を失うことに脅える人々」の格差がますます顕著になりつつある。  6月10日と17日に投開票のあったフランス総選挙は、そのような時代の到来を感じさせる結果となった。

24年ぶりに議席を獲得した右翼政党

 国民議会(下院)議員を選ぶ総選挙は、大筋で事前の予想通りだった。社会党が単独で過半数を占め、オランド政権は基盤が強化された。右派は大敗を喫し、 前大統領サルコジの懐刀だった前内相クロード・ゲアンや、元外相のミシェル・アリオ=マリーも落選した。また、社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル、ジャッ ク・ラング、中道のフランソワ・バイルーといった大物が落選し、世代交代を印象づけた。
 右翼政党による24年ぶりの議席獲得は、これらのニュースに半ば埋没している感がある。右翼「国民戦線」の党首マリーヌ・ルペンが落選したこともあり、右翼の大規模な国政進出はむしろ阻止されたと受け止められている。
 右翼の当選者は3人。国民戦線公認のマリオン・マレシャル=ルペンは党首ルペンの姪で、最年少22歳の議員となった。弁護士のジベール・コラールは非党 員だが、党首ルペンの側近だ。もう1人は元国民戦線幹部で、執行部と対立して自らの右翼政党を立ち上げたジャック・ボンパール。筆者は2002年の総選挙 で彼にインタビューをしたが、「移民とは、他人の家に上がり込んで冷蔵庫をあさるような存在だ」と公言する露骨な差別主義者だった。
 この3人の影響はかなり限られる、との見方が仏メディアでは大勢だ。国民議会で正式な会派を結成するには15人の議員を必要とする。会派に属さない無所 属議員は、年間で1度しか質問に立てない。しかもそれは、各党代表質問の終わった後で、多くの議員が引き上げ、テレビ中継も終了した後だ……。
 ただ、この3議席はむしろ、フランス社会で起きつつある変動の象徴と受け止めるべきだろう。

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