大阪市の政治活動規制条例と地方公務員法

執筆者:原英史2012年6月30日

 

 大阪市で、政治活動規制条例が市議会に提出される。
 問題の背景は、いわゆる市役所ぐるみの選挙活動だ。今年1月から3月にかけ、野村修也氏を中心とする第三者調査チームで調べた際も、市の幹部職員が集まって選挙情勢報告をしていた会議の議事録がみつかるなど、種々の問題が判明した。
 こうして、市の職員が選挙に深く関わってきたことが、選挙で選ばれるトップと行政組織との緊張関係を損ない、組織内の規律の劣化を招いてきたのでないか、というのが調査チームの見立てだった。
 
 いわゆる役所ぐるみの選挙は、大阪市だけにとどまらない。他の自治体でも相当程度みられる問題だ。
 そして、国と比べ、地方での問題がはるかに大きい。
 
 その理由と考えられるのが、国家公務員と地方公務員との、政治活動規制のずれ。地方公務員の方がずっと規制が緩いことだ。
 
1)まず、国家公務員の場合、違反には「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」という罰則があるが、地方公務員の場合、刑事罰の定めはない。
 
2)国家公務員の場合、現業職員も含めすべて規制対象だが、地方公務員の場合、現業職員は対象外。
 
3)国家公務員は、全国どこで政治活動を行っても違反になるが、地方公務員は、その自治体(ないし勤務する支庁など)の所管区域内での行為だけが規制される。
 
4)最後に、規制される行為類型も、地方公務員は限定的で、「投票勧誘」「寄付金募集」などに絞られている。
 この点は、地方公務員法上、条例で行為類型を追加できることになっているが、実際上、ほとんどの自治体では定められていない。
 
 そこで、大阪市で、「国並みに政治活動規制を強化できないか」という検討がなされたわけだが、立ちふさがったのが国の壁だ。
 
 ちょうどこのタイミングで出された質問主意書に対し、政府は、6月19日閣議決定の答弁書で、
1)条例で罰則を定めること、
2)条例で現業職員を規制対象に加えること、
3)条例で区域外の行為を規制対象に加えること、
のいずれについても、「法律(地方公務員法)に違反し、許容されない」と回答した。
 
 
 大阪の橋下徹市長は、閣議決定の範囲内で条例をつくる方針を表明。
ただし、閣議決定を逆手にとり、罰則に代えて「原則、懲戒免職」と規定する方針に転換した。
 
「逆手に・・」云々というのは、国が閣議決定で、以下の説明をしてきたことを指す。
 
「・・・法制定時の提案理由説明において、『職員の政治的行為の制限の違反に対しては、懲戒処分により地方公務員たる地位から排除することをもって足る』との見地から罰則を付さないこととされている。・・・かかる経緯を踏まえれば、同法は地方公務員の政治的行為の制限については罰則を付すべきでないとの趣旨であると解され、条例で罰則を設けることは、法律に違反し、許容されないと考えられる。」
 
閣議決定で「懲戒処分により地方公務員たる地位から排除できるから、罰則はつけられない」と言っているのだから、それでは、「閣議決定のとおり、懲戒免職により、地位から排除しましょう」ということだ。
 
 こうして大阪市は閣議決定を“尊重”したわけだが、考えてみると、この閣議決定は、そもそも論理的に変だ。
 
「懲戒処分により公務員たる地位から排除できる」ことは、国も地方も同じ。なぜ国家公務員と地方公務員を区別しているのかは、よく分からない。
 
 主管の総務省でも、法制定時(昭和25年)以来、この区別の理由をきちんと整理しないまま60数年を過ごしてきたことが、今回の閣議決定で明らかになった。
 
「区域外に出たら、政治活動をしてもよい」という規定も、むしろ法律の方がおかしくはないか。これだけ通信技術が発達し、誰も携帯電話を持つ今、合理的な規定とは到底思われない。
 不合理な法規定を放置していながら、地方で独自に規制を定めて対処しようとすると、「法律に違反し、許容されない」というわけだ。
 
 大阪市の条例案は、こうした矛盾だらけの法規定を放置してきた、国の側の問題をあぶり出したものといってよいのでないか。
 
(原 英史)

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