渡辺靖(わたなべ・やすし)慶應義塾大学SFC教授。1967年生れ。専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。著書に『アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と〈文化の政治学〉』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞)、『アメリカン・コミュニティ』(新潮社)、『文化と外交』(中公新書)などがある。
渡辺靖(わたなべ・やすし)慶應義塾大学SFC教授。1967年生れ。専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。著書に『アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と〈文化の政治学〉』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞)、『アメリカン・コミュニティ』(新潮社)、『文化と外交』(中公新書)などがある。

渡辺靖 日本は「お上信仰」といいますか、政府を頼る気持ちが強いですね。僕の学生たちに「ある国で識字率を上げたいとき、誰がやるべきですか」と聞くと、1人残らず「政府だ」と答えます。アメリカで同じ質問をしたら、政府だという人は半分くらいで、あとの半分は、ニーズがあるならビジネスとしてやっていけるんじゃないかというんです。それも1社が独占するのではなく、複数が競い合えば、競争原理が働いて回していけるようになるんじゃないかという意見が出てくる。  日本では、政治がひどい状況であっても、デモをしたり、自分たちで変えていこうとはあまりしてきませんでした。自分たちが苦労するより、まずは政府でしょうという発想が強い気がします。

宇野重規(うの・しげき)東京大学教授。1967年生れ。専攻は政治思想史、政治哲学。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社、サントリー学芸賞)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)などがある。
宇野重規(うの・しげき)東京大学教授。1967年生れ。専攻は政治思想史、政治哲学。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社、サントリー学芸賞)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)などがある。

宇野重規 確かにアメリカと日本を比べると、その通りだと思います。ただ、ここにフランスを入れると話がややこしくなる。フランスというのも国家が大好きな国で、問題が起きたらそれを解決するのは国家である、という意識は非常に強い。その限りにおいては、日本とよく似ている。  ただフランスは、フランス革命をくぐっているので、これは自分たちのレピュブリック(共和国)であるという意識が非常に強い。それこそルソーの「一般意 志」ではないですが、自分たちの公共の意志の化身が共和国である、という自分と共和国を一体化して捉えるロジックがある。  それに比べると、日本人は政府に依存する傾向が強いですが、では、この政府が自分たちの政府であって、自分たちの一般意志によって動いていると思っているのかというと、誰もそんなことは思っていない。  だから、アメリカ型の個人競争型社会よりは北欧型の福祉国家がいいと言いながら、行政嫌い、官僚嫌いで、政府は信じられないという。この矛盾した精神構 造は、多かれ少なかれ世界中にある傾向なのでしょうが、日本にはそれがたぶん1番デフォルメした形であって、それがいまの政治の停滞を招いているという側 面はあります。

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