古都ダマスクスの記憶

執筆者:徳岡孝夫2012年7月12日

 生まれつき性根がひねくれているせいか、私は他人の失敗に立ち会うのが大好きである。  何かのイベントの開会式があって、何人かの偉い人が会場の入り口で長々と演説をする。やっと終わって、「それでは××先生に会場のテープカットをしていただきます」とアナウンスがある。  白い手袋をした綺麗な女の人が、鋏を載せたお盆を捧げ持って、しずしずと進み出る。  私はあの瞬間、司会者がテープをパイプと言い間違えないか、何回手に汗握って待ったことだろう。    思うに先生は政治家で、政治家には政治資金という得体の知れないカネがある。金銭的余裕は、男の浮気心を刺激する。小沢先生に倣って、隠し子の1人や2人いても不思議ではない。  しかし先生の奥様は、現代日本の空気を呼吸する女性である。権利意識が発達しているから、隠し子を許さない。先生の御家庭には狂瀾怒濤の波風が立つ。とどのつまり「お前がそんなに言うんなら、俺がパイプ・カットすればいいんだろ」と荒っぽい結論が出て、鋏が登場する。  イベント会場の入り口に立つ私の想像力は、1秒か2秒の間にそこまで飛躍する。だが悲しいかな、鋏を手にした先生がベルトを緩めズボンを脱ぎ出す現場を、いまだに見たことがない。

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