今年2度の利下げをした中国人民銀行の周小川総裁(c)時事
今年2度の利下げをした中国人民銀行の周小川総裁(c)時事

 中国経済の悪化が止まらない。すでに危機的状況に突入しているといってもいいだろう。それを最も端的に映し出しているのが中国人民銀行の動きだ。6月8日に3年半ぶりに政策金利を引き下げたのに続いて、7月6日には2回目の利下げに踏み切った。1カ月足らずでの連続利下げに中国経済の状況の深刻さ、人民銀行の焦りがよく表れている。  2回目の利下げについて、「景気悪化に先手を打った」という説明を日本の新聞などがしているが、現状をまったく認識していない。人民銀行は住宅バブル退治とインフレ終息に軸足を置きすぎたため、景気悪化への対応が大きく遅れ、慌てて舵を切ったときには中国経済は暴風雨に突入していたというのが現実だ。だが今、中国経済を襲っているのは短期の景気悪化だけではない。急激な人件費上昇、人民元高で輸出競争力が急低下、工場脱出が本格化し始めたことこそ中国経済を大きく揺さぶっているのだ。

三一重工の失速が示すもの

「晴天から暴風雨に」。中国経済は好調で、世界経済を牽引しているというイメージを持っていた多くの人には、今回の景気悪化は晴天の霹靂のように感じられるかもしれない。だが、中国経済は「人民元高」「人件費の上昇」「住宅バブル」という3つの難題を抱えながら、常軌を逸したインフラ建設などの政策によって強引に膨張を続けてきただけで、リーマンショック以降は「つくられた好況」にすぎなかった。政策が手詰まりになった今、多くの問題が表出し、中国景気は一気に悪化した。
「つくられた好況」に揺さぶられた典型的な企業がある。中国最大の建設機械メーカーである三一重工だ。昨年3月の福島第1原発事故直後に炉心冷却のために水を送り込む装置としてセメント打設用の大型ポンプ車を寄贈した会社だ。セメント打設の大型建機やパワーショベルなどを得意とし、昨年は中国の建機市場の油圧ショベルのシェアでコマツを抜き、首位に立った。中国のインフラ建設需要を追い風に急成長し、香港上場を計画しているほか、東京証券取引所への上場の観測も出るほどの伸び盛りで、中国の好景気を象徴するメーカーだった。だが、今、三一重工は社員の大量削減など大リストラに追われ、上海上場の株価も最安値水準に落ち込んでいる。

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