スペイン「地下経済」の光と闇

執筆者:大野ゆり子2012年8月3日

 ここのところ、マドリッド、バルセロナに続けて行く機会があった。夫が指揮する演奏会に同行したのだが、ギリシャに代わって、今やユーロ危機の象徴となった感のあるスペイン。欧州委員会の統計EUROSTATによると、6月の失業率は24.8%、ユーロ圏で最も高いといわれ、特に25歳未満の若年層の失業率は52.7%にも上る。スペインから流れるニュースといえば、緊縮財政に反対する大規模デモや、不動産バブル後に住宅ローンを払えず、自宅を差し押さえられる市民の様子ばかりだ。正直言って、この時期にクラシックのコンサートどころではないのでは、と危惧していた。

贅をこらしたドレス

バルセロナのメインストリート、ランブラス通り(筆者撮影)
バルセロナのメインストリート、ランブラス通り(筆者撮影)

 しかし、予想に反して両都市ともチケットは完売。約2千席のホールは満員だった。聴衆の女性たちの服装も、真っ赤なスーツや黒の凝ったレースのカクテルドレスなど、贅をこらしたものが目立つ。最近では各国ともオペラやコンサートでのドレスコードが緩やかになり、アングロサクソン系の国々ではジーンズでも大丈夫だが、ここスペインやイタリアなどラテン系の国々は、女性がここぞ、とばかりお洒落をする傾向がある。  チケットの料金は割引によっても違ってくるが、およそ4ユーロから30ユーロ。この額の支出を厭わないのが、ある程度裕福な階層だと仮定しても、マドリッドもバルセロナも一見、活気に満ちあふれている。バル(居酒屋)は、タパスと呼ばれる魚介や野菜の小皿のつまみで、一杯ひっかける地元の人々で賑わっているし、レストランは大家族で食事する家族で満席だ。15世紀末に国土をムスリム勢力から奪回して以来、まるで「踏み絵」のように食生活に定着した、イスラム教にとって禁忌とされる「子豚の丸焼き」が、名産地・リオハ地方の赤ワインやパエリアとともに、テーブルに所狭しと並んでいる。市民が通う市場には新鮮な魚介、肉、野菜が溢れ、物価が高騰したとはいえ、北のヨーロッパ諸国に比べれば破格の安さだ。晴れ渡った空の下でシエスタ(昼寝)のゆっくりしたライフスタイルを過ごす人々を見ていると、デフォルトの危機など遠い世界のことのような錯覚に襲われる。

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