8月12日、エジプトのムルスィー大統領が大きな動きに出た。6月末まで暫定統治を行い、ムルスィー大統領就任以後も留任してきた軍最高幹部を実質上更迭したのである。

 まったく予想されていなかった動きだが、この日の決定で、国防大臣・軍最高評議会(SCAF)議長のタンターウィー陸軍元帥と、アナーン参謀総長を即日で退役させた。そして、6月17日に出された憲法宣言追加条項を廃止すると決めた。さらに、ムバーラク政権に批判的だった著名な判事を副大統領に任命し、ムバーラク政権による政治任命でバランスを失った司法への梃入れにも着手している。

 憲法宣言追加条項とは、6月17日に大統領選挙の投票が終了した直後にSCAFが発出したもので、新大統領の就任後もSCAFに軍事・立法上の大幅な権限を残す、民主化を阻害するものだった。

 これを廃止することにより、形式的にはSCAFの権限と機能は通常の純軍事的なものに戻る。昨年2月11日のムバーラク辞任の前日にムバーラク抜きで招集されたSCAFが行ってきた軍政が終了することになる。

 また、暫定統治の頂点にいたタンターウィーとアナーンを退任させたことで、実際に大統領が軍高官の任免権を持つことを示した。二人だけでなく、海軍・空軍・防空軍の司令官もそろって退役させている。鮮やかな動きである。

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