鴻海に踊らされたシャープの命運

執筆者:新田賢吾2012年9月13日
堺工場の視察に向かう郭台銘氏(c)時事
堺工場の視察に向かう郭台銘氏(c)時事

 1年前、シャープがこれほどの経営危機に陥ると誰が予想できただろうか? 主力の液晶パネル、液晶テレビの価格急落、販売低迷という厳しい状況があったにせよ、シャープの経営悪化、とりわけ6月以降の転落のスピードは速かった。その直接的な原因は明らかだ。台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)及びその創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏との連携に救いを求めたことである。  ホンハイが出資を遅延させたことがシャープに対する市場の不安を煽り、株価下落、資金繰りの悪化につながった。もちろんホンハイとの連携という支えがなければ、今以上に深刻な事態に陥っていた可能性はあるが、他の選択肢も浮上していたはずだ。高い研究開発力を持ちながら、台湾のEMS(エレクトロニクス機器の受託製造メーカー)に踊らされたシャープの姿は、他の日本の製造業への強い警告といってよい。

鴻海が狙っていたもの

 ホンハイはシャープの何を求めていたのか? 答えは当たり前だが、液晶パネル生産に関する技術とパネルの生産工場であり、シャープという企業ではない。シャープの持つ太陽光発電パネルや携帯電話の技術、商品開発力にも多少は興味があったかもしれないが、両分野ともホンハイがこれから握って、グローバルナンバーワンを目指すことのできる事業ではない。一方、「シャープ」というブランドもホンハイにとってはまったく魅力がなかっただろう。「シャープ」ブランドがグローバルマーケットに浸透できず、通用しなかったからこそ、シャープは液晶パネルの先駆者でありながらサムスンやLG電子に大差をつけられ、「負け組」となったからだ。
 こうみれば、今年3月に結ばれた両社の資本・業務提携が何であったかよくわかる。提携には2つの柱があった。第1は、ホンハイがシャープから第三者割当増資によって9.9%の株式を取得し、筆頭株主となること。第2は、ホンハイの創業者・会長である郭台銘氏個人が単一工場としては世界最大で、最新鋭の第10世代の液晶パネル工場である堺工場(大阪府堺市)を保有、運営するシャープディスプレイプロダクトの46.48%の株式を660億円で買い取ること。以上の2点だった。一目瞭然だったが、シャープはホンハイ、液晶工場は郭氏個人という資本提携は異常だ。ホンハイにキャッシュや借り入れ能力がないわけはない。ホンハイがシャープ本体とともに堺工場にも出資するのが自然の流れだ。

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