南アフリカ・コーポラティズムの崩壊?

執筆者:平野克己2012年9月28日

 南アフリカのプラチナ鉱山で起こった労働争議は45人の死者を出し、ズマ大統領が現場に赴くまでの大ごとになって、先日ようやく解決をみた。ただし、その余波は現在金鉱山に及んでいる。南アフリカでは激しい労働争議は年中行事というに等しく、死者が出ることも珍しくはないのだが、今回は少々事情が異なる。40人をこえる死者が出たのは民主化後初めてであるが、それ以上に、南アフリカの政治体制や統治機構に与えた衝撃が大きい。昨日ムーディーズ社は南アフリカの格付けを一段落としてBaa1とした。

 南アフリカの与党であるアフリカ民族会議(ANC)は、正確にいうと、もともとのANCと南アフリカ共産党、それに労働組合組織があわさったANC Allaianceである。1994年に行われたこの国最初の民主選挙に際し、統一会派として登録されたものだ。

 アパルトヘイト時代、非合法だったANCや共産党に代わって国内で民主化運動をしていた組織の核が労働組合だった。最大労組は全国鉱山労働者組合(NUM)で、ここから多くの政治家や大臣が生まれた。NUMは、民主南アフリカにおいて統治機構の一翼を担ってきた。

 ところが、今回の労働争議を起こしたのは、NUMから脱退した人々によって結成されている別労組、鉱山・建設労働者組合連合(AMCU)だった。政府与党の方針を体現するNUMが現場の労働者の信頼を失い、AMCUの組織力が高まっているのである。一方経営者側は、産別交渉というフォーマルな場を離れたAMCUとの団体交渉を拒否、両者は戦闘的に対峙した。そこに警察隊が導入されて発砲の事態を招いた。

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