1年後には確実に与党の座を追われているであろう民主党政権の迷走が一段とエスカレートしている。惨敗必至の次期総選挙に向け、乾坤一擲の大逆転を期す政策となるはずだった「脱原発」は、9月14日の政府のエネルギー・環境会議後に古川元久・前国家戦略相が「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」と宣言してから1週間も持たなかった。予定していた19日の閣議決定は米国との調整不備で見送られ、核燃料サイクルについては使用済み核燃料再処理工場がある青森県に対し「政策の継続」を伝えるなど、その後も綻びや矛盾が立て続けに露呈している。
 政権奪還を期す自民党が9月26日に実施した総裁選挙では業界シンパの安倍晋三が当選。「電力改革」の機運は急速に後退し、原発停止による廃炉懸念や代替火力の燃料費負担で瀕死の状況だった電力会社が急速に息を吹き返しつつある。

組閣で株価を上げた電力各社

 10月1日、電力各社の株価が一斉に値を上げた。2カ月前に国有化された東京電力(前週末9月28日128円→130円)は横ばいに近いが、その東電も含め、関西電力(610→641円)、中部電力(1017→1037円)、中国電力(1037→1084円)、北陸電力(947→999円)、東北電力(628→669円)、四国電力(881→936円)、九州電力(644→674円)、北海道電力(634→671円)と9社すべて上昇した。
 この日は野田佳彦第3次改造内閣の組閣日。文部科学相に“抜擢”した田中眞紀子をはじめ、厚生労働相として初入閣する三井辨雄ら、小沢一郎「国民の生活が第一」代表に近い面々を離党防止のために引き入れるなど、「恥も外聞も無い人事」(与党関係者)で、永田町界隈では早くも政権末期のムードが漂った。
「『原発ゼロ』政策は風前の灯」と複数の証券アナリストは判断。「近著で『脱原発』への決意を吐露した枝野(幸男)経済産業相の留任がなければ、関電や九電の上げ幅は100円近くになったかも」といった声も市場関係者の間で上がった。
 ほんの2-3週間前まで電力各社は激しい逆風にさらされていた。7月に関電大飯原発3、4号機が運転を再開してフル稼働に達して以降、国内の残り48基の原発は相変わらず再稼働のメドが立たない。代替火力の燃料費負担で電力各社の収益は悪化の一途。中でも発受電電力量に占める原発の比率(11年3月期)が44%の関電と39%の九電は、原発依存度が高かったゆえに、財務へのダメージがひときわ大きい。
 9月20日に関電は2012年4-9月期(以下、業績数値はすべて連結)の最終損益が1250億円の赤字(前年同期は204億円の黒字)になりそうだと発表。半期では過去最大の赤字となり、中間配当を32年ぶりに見送ることも明らかにした。九電の12年4-9月期の最終損益も1650億円の赤字(前年同期は133億円の赤字)の見通しで「原発停止が長引く場合は14年3月期に債務超過になる可能性がある」(9月14日付日本経済新聞)。九電も32年ぶりに中間配当の見送りを決めた。

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