市民社会か?階級社会か?

執筆者:平野克己2012年10月9日

 先月南アフリカのプラチナ鉱山で大惨事を招いた労働争議の余波が続くなか、10月1日から始まった南アフリカ・トヨタでの山猫ストが先週末終結した。日系企業や製造業部門にとっては一安心だが、おもな金鉱山の操業はいまだに止まったままだ。

 南アフリカにおける賃金格差は、「アパルトヘイト時代の負の遺産」としてよく説明される。しかしこの常套句は正確ではない。たしかに、アパルトヘイトのときの人種別賃金とその格差は大きかった。それが制度になっていて、格差をつけなくてはいけなかったという点においては異常だった。だが、南アフリカの賃金格差、所得格差が目に見えてひろがっていったのは、民主化後のことなのである。それも、今世紀に入ってからだ。

 きっかけは、2002年に役員給与の公開が義務付けられたことだった。1990年代に世界各国で公開されるようになったが、その潮流が南アフリカにもおよんだのである。それ以降役員たちの給与パッケージは上昇しつづけて、名だたる南アフリカ企業のCEOはみな年間数億円の所得をえている。平社員との格差は200倍をこえている。役員クラスには白人が多いが、黒人もどんどん増えてきた。だから、いまの南アフリカでは白人黒人間の所得格差よりも、白人のなか、そしてなにより黒人内での格差がもっとも大きくなったのである。

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