モスクワで「対中警戒感」が広がる理由

執筆者:名越健郎2012年10月19日

 ロシアのプーチン大統領は今年2月に発表した外交論文で、「中国について語ることはファッショナブルだ」と書いたが、モスクワのロシア人識者の話題も「中国」が最大の関心事だった。尖閣諸島をめぐる日中の領有権争いもロシアでは比較的大きく報道され、関心の強さが分かる。

 9月下旬、日露学術報道専門家会議代表団に参加して1週間モスクワに滞在した際、会見したロシア外務省高官は「尖閣をめぐる展開から目を離せない。日中という隣国が対立を解消し、東アジア情勢の不安定化を招かないよう望む」と述べ、ロシアは中立姿勢を維持することを強調した。ロシアのテレビは中国側映像を多用することから、やや中国寄りの印象を受けたが、ロシア政府はどちらの側にも立たない路線だ。8月にモスクワで開かれた中露安全保障会議で、戴秉国・国務委員(外交担当)が北方領土と尖閣での共同歩調を持ち掛けたが、ロシアは回答しなかったという。

 中国専門家のバジャーノフ外交アカデミー所長は、尖閣問題で「日本の文献を読めば、日本の主張は正しいと思うし、中国の文書を読めば、中国の主張が正しいと思ってしまう。研究すればするほど問題は難しくなる」とはぐらかしながら、「中国にとって、日本との貿易経済関係は極めて重要であり、リスクを避けようとするだろう。日中関係は中露関係より、経済、文化、歴史面ではるかに緊密であり、密接な協力が可能だ」とし、いずれ情勢は沈静化に向かうとの見方を示した。

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