誰が文化を支えるか

執筆者:大野ゆり子2012年11月16日

 橋下徹大阪市長による文楽協会への補助金削減案は、厳しい財政状況の中、公的機関が文化の助成にどのように取り組むのか、という難しい問題を提起した。
 これは危機の最中の欧州でも大きな問題だ。この地図をご覧いただきたい。英ガーディアン紙が、仏ル・モンド紙、スペインのエル・パイス紙、伊ラ・スタンパ紙、南ドイツ新聞、ポーランドのガゼタ・ヴィボルチャ紙の協力を得て、緊縮財政による各国の文化予算削減の様子をインタラクティブな地図にしたものである。
 大学、美術館、オーケストラ、オペラ、バレエなど、どの国の、どの文化施設が、どういう影響を受けたのか、ピンをクリックすると詳細が出てくる。文化省そのものを廃止したポルトガルをはじめ、びっしりと打たれたピンで欧州地図は埋もれてしまうほどだが、その中で驚くほど地図がきれいなのがフランスである。

日本の4倍以上の仏文化予算

 平成22年2月の文化庁長官官房政策課の資料によると、国家予算に占める文化予算の割合は、日本が0.12%(1018億円)に対して、フランスが0.86%(4817億円)。
「ドイツにはシーメンス社が存在するのだろうが、我がフランスにはヴォルテールが存在する」と発言したフランス外交官がいたそうだが、自国の文化を保護し、育成し、海外に「輸出」することを、フランスは国家の重要な役割と位置づけてきた。
 フランスの文化政策と補助金については、2007年12月に、アメリカのタイム誌が、「フランス文化の死滅」という特集を組み、フランス国内で猛反発を巻き起こしたことがある。在仏アメリカ人記者が「フランスは世界一、文化予算を使っているのに、世界のカルチャーシーンをリードする人物をもはや輩出していない」と書いたのだ。
 これに対し、仏メディアは大反論。フィガロ紙は異例の3ページを割き、「タイム誌記者は『文化』と『娯楽』をはき違えている。『文化』は週ごとのチケット売り上げで決まるものではない。長い時間で『醸成される』ものだ」と反駁した。
 先の日本の文化庁の資料によれば、アメリカの国家予算に占める文化予算の割合は0.03%(889億円)。その少ない予算の代わりにこれまで文化を支えてきたのが、国内総生産(GDP)の1.67%を占める20兆4000億円の寄付。しかしリーマンショック後、スポンサーは激減し、寄付に頼り切っていたカルチャーシーンは壊滅的な打撃を受けている。

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