野田首相が開けた師走選挙というパンドラの匣

執筆者:青柳尚志2012年11月30日
不可能と思われた提携を実現させた石原氏(左)と橋下氏(c)AFP=時事
不可能と思われた提携を実現させた石原氏(左)と橋下氏(c)AFP=時事

 政治の世界にはすべてが一点に凝縮される「真実のとき」がある。11月14日の野田佳彦首相と安倍晋三自民党総裁による与野党党首討論は、さしずめその瞬間であろう。首相自らが衆院解散を公言し、虚を突かれた安倍総裁がオロオロする。テレビは執拗にそのシーンを流し続けた。  自爆解散、いや真珠湾解散だろう。12月16日の総選挙で絶滅危惧種扱いされていた民主党が、消えてなくなる可能性は小さくなった。それどころか、党首討論などで得点を稼げば、民主党は100議席割れは回避できるのではないか。80ないし60といった議席が囁かれていたことを考慮すれば、野田氏の作戦勝ちである。  野田首相が年内選挙に打って出たのは、輿石東幹事長らによるクーデターの機先を制し、第3極と言われる勢力が態勢を整える前に動いたという面が大きいだろう。あるいは、環太平洋経済連携協定(TPP)など、各党が割れている争点を打ち出すことによって、政界再編の主導権を確保しようとしているのかもしれない。

したたかだった橋下氏と石原氏

 もっとも、第3極の代表とされる橋下徹(大阪市長)と石原慎太郎(前東京都知事)の両氏もしたたかだった。橋下氏率いる日本維新の会と石原新党の提携は不可能と思いきや、石原氏を代表に迎え入れる奇策で難関を突破してみせたからだ。10月の時点でトップ会談した両氏は、次のような会話を交わしたとされる。
 橋下「石原さんが総理になってください」
 石原「そんなに長くはやらない。その次は橋下くんだ」
 良く出来た政界都市伝説かもしれないが、世論の人気という点でこの2人には追い風が吹いている。そういえば、民主党を脱党し国民の生活が第一を立ち上げた小沢一郎氏も、この2人にそれぞれ「あなたが総理に」といって、提携話を持ちかけている。もっとも橋下、石原両氏は、2人で話し合った際にその事実を知る。とくに石原氏は小沢氏への嫌悪を強め、橋下氏との関係強化に走る。
 そんな小沢氏の手法は、国民の生活が第一、減税日本、みどりの風の泡沫政党を糾合し、日本未来の党を作り上げる際にも繰り返された。消費税、TPP、原発の3点セットのすべてに、「ダメなものはダメ」と肘鉄を食わす主張は、かつての日本社会党のようで清々しさを感じないでもない。この点で割を食うのは民主党だろう。

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