「最近は援助において、日本の国益についても考慮しなくてはならなくなった。」ある研究会でプレゼンした開発経済学者の言葉である。私は手にしていたペンを落としそうになった。だが、これはこれでひとつの考え方であり、援助は援助国の都合でおこなうべきではないという理念は、研究者を含め、いまでも非常に多くの援助関係者のあいだで共有されているのである。

 援助政策の目的は開発途上国の貧困削減以外であってはならず、受益者は貧困層以外であってはならない――このような考え方の淵源はおそらく、ケネディ政権がアメリカの援助を軍事戦略から分離させて、開発途上国の経済発展以外の政策目的を負わせるべきではないとしたことにあると思われる。しかしこれは、経済発展に政策目的を集中させたほうが効率的であり、経済水準さえ上がれば政治発展をもたらして民主主義が定着し、西側に有利な国際社会ができあがるという戦略的想定のうえで主張されていたのである。

 その当時の日本は、オランダやイギリスが撤退したあとの東南アジアに日本の経済権益を浸透させようと、積極的に経済協力政策を進めていた。現在の中国の援助政策を思わせるようなそのやり方は、やがて英米に脅威を感じさせ警戒されることになった。その後の英米の巧妙な工作によって日本の経済協力政策は牙を抜かれ、現在のような開発援助政策に変容してきた。その転換点にあったのが前川レポートであった。日本の完全先進国化、欧米化をめざした前川レポートは、援助政策についても、(日本企業とのヒモつきを廃した)アンタイド化や、(輸出信用と抱き合わせの)混合借款の撤廃を提唱した。

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